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ブルジョアの愛人
第14章 狂器の姿

三秒ほど走ったところで、バチッと場面が切り替わった。今度はきらびやかな都会の街から一変、草木が生い茂る峠を走っている。民家はほとんどない。後ろからついてくる車も、前を走る車も気づけば全くいなかった。

この時期によくやる心霊ドラマみたいで気持ち悪いと顔をしかめながらコップをテーブルに置くと、車も急に止まった。分かれ道も何もないところで。

「ねえ、何の冗談? ここどこなのよ」

つまらないドラマにもあまり批判的な意見を持たない莉菜でさえ今さらかよ、と心の中で突っ込んだが、女はおどおどと戸惑う演技をやめない。

「俺達は出逢うのが遅すぎたんだ」

どこかで聞いた台詞だと思ったら、浩晃がよく車の中で聴いている曲の歌詞に似たようなものがあった。

「だから何なの?」

「でも遅すぎた出逢いを悔やんでも、もうどうしようもないんだ。君にも僕にもパートナーがいる。しかしお互い、パートナーを愛せずに似たような境遇の人間を愛した」

「どうしたの? あなた変よ。ねえお願いだから家に帰して」

莉菜も変だと思った。不自然に尖った女の鼻や、男の喋り方が。

つまらないな、とチャンネルを替えようとリモコンに触れたが、男の台詞に手が止まった。
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