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ブルジョアの愛人
第20章 どこへも行かないで

浩晃と莉菜がそれぞれ別のパトカーで中央署へ連行されて間もなく、祖父母も署に呼ばれた。

警察から事情を聞かされた祖父母は、最初は信じられなかったようだが、警察の話を聞くうちに状況を把握し、署に着いてから約三十分後には「早く莉菜を出せ」と――滅多に怒鳴ることのない祖父までも――文字通り青筋を立てた。

結局、長い事情聴取の末に解放されたのは朝方だった。

祖父母も待ちくたびれ、怒る気力もなくしかけていたが、莉菜の憔悴した顔を見た瞬間憤りがぶり返した。

妻子ある男と夜中にこそこそ逢い引きするとは何事か。大人に憧れ過ぎだ。そんなことを言われた。

莉菜はただ、ごめんなさいと頭を下げるほかなかった。いつも味方でいてくれた祖父の真っ赤な顔を見て、やっと事の重大さに気づいたのだ。これからのことを思うと、憂鬱しかない。

浩晃がくれた携帯は、警察に提供したというより、ほとんど強奪された。もともと返すつもりだったのに、空っぽのカーディガンのポケットに手を突っ込むと、悲しさとも虚しさともつかない虚無感に襲われる。

別に、いやらしいメールや写真などはないのに、婦人警官に携帯を渡すときはなぜか躊躇われた。

彼女の有無をいわせぬきつい眼差しがそうさせたのかもしれないし、浩晃への未練がそうさせたのかもしれない。だが何となく、純真といってもいいほどの二人の思い出が彼らに奪われそうで怖かった。
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