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ブルジョアの愛人
第10章 破滅の理由

飯尾将希と逢うのは、だいたい平日の夜中だ。飯尾は広告代理店ではなく広告制作会社に勤めており、深夜まで仕事をした帰りに樹里の家へ寄る。密会をするのは、飯尾の自宅マンションだ。

樹里は出会い系で「CoCoA」というハンドルネームを使い、小学生だということを全面に押し出していた。位置情報サービスの位の字も知らない樹里はマスクをした顔写真も載せていたのだが、ネカマの悪戯だと思う人間が多いらしく、冷やかしメッセージが多かった。

その中で「CoCoA」に言い寄ってきたのが飯尾である。顔写真もなかなかの爽やか系ハンサムで、年齢も二十七歳と魅力的である。

言葉巧みに誘導してLINEのIDを聞き出し、実際に声を聞いた上で指定したポーズの写真を数枚送らせてネカマではないことを確認しても飯尾はなかなか逢おうとしなかった。

「逢いたくても逢えない期間が長い方が、逢えたときに嬉しいじゃない」

飯尾はしゃがれた声で言った。初めて逢う一週間前、四月十六日のことだった。
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