『あまのじゃくのおきて』前篇
魁(かい)君は鬼の子ども、あまのじゃくです。
鬼だけど、まだ角はありません。
角は十才なると生えてきます。
もう少しで十才なるところです。
魁君のお父さんは、魁君の頭をなでながら言いました。
「そろそろ頭がかたくなってきたな。もう少しで角が生えてくるぞ。うちは鬼の家系なのに、もう五百年くらい誰も鬼になったことがないんだ。魁はがんばって、お父さんの分まで立派な鬼になるんだぞ」
「うん、ぼくがんばって立派な鬼になるよ」
角が生えるまでは、見た目は人間の子どもと同じです。
人間の子供と同じように学校にも通っています。
でも、鬼の家系には“おきて”がありました。
それは角が生える前に人間から鬼だと知られていけないのです。
鬼と呼ばれてもいけないのです。
もし鬼と呼ばれてしまったら、鬼ではなくなり、人間になってしまうのです。
魁君のおじいさんは、小さいときに鬼ごっこをして「鬼さん、こちら」と言われ、鬼でなくなってしまったそうです。
お父さんも鬼になれませんでした。
「お父さんは、どうして鬼と呼ばれたの?」
魁君は何度かお父さんに聞きましたが、お父さんは困った顔をして、お母さんを見るだけでした。
お母さんはお父さんを見て、にこにこ笑っていました。
魁君は学校で今まで以上に、鬼と呼ばれないように気をつけました。
友だちから「鬼ごっこしよう」と誘われても、もちろん断りました。
かくれんぼも、缶けりも断りました。
もっと用心して、休み時間は友だちと一緒にいないようにしました。
本当はみんなと遊びたかったのです。
でも立派な鬼になるために、さびしくても我慢しました。
「ぼくは五百年ぶりの立派な鬼になるんだ」
そう心で思いながら、休み時間に教室で一人、自分の頭のかたいところをさわりながら、外でみんなが楽しそうに遊んでいるのを見ていました。
「なんでみんなと一緒に遊ばないの?」
魁君は急に後ろから話しかけられてびっくりしました。
隣りの席の真理(まり)ちゃんでした。
真理ちゃんは明るく元気で、思ったことはなんでもはっきりと言う女の子です。
「魁君は病気なの?」
真理ちゃんの大きな目に見つめられて、魁君はどきどきしました。
「病気じゃないよ」
「よかった。じゃあ、なんで遊ばないの?」
魁君は答えられませんでした。
つづく……。
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蒼井シリウスさんの日記
ベリーショートショート その3
[作成日] 2014-02-20 16:32:37