タケシは拳を握り、マモルの顔めがけて突き出した。
渾身の力でだ。
しかし、マモルはそれを寸前で避けた。
「ちくしょう!」
タケシはもう一度マモルを殴ろうと拳を振り上げた。
その時だった。
先にマモルが殴ってきた。
「ちくしょう!」
という台詞を加えました。
でも、勘違いしないでください。
台詞を入れると、小説らしくなると言いたかったのではありません。
タケシが「ちくしょう!」と口に出すほど激情している状態であると、伝えたかったのです。
もしこれが「ちくしょう!」ではなくて「けっ、お前、やるな」だったら、タケシもマモルもそれなりの使い手で、タケシがそれを余裕を持って楽しんでいると想像できます。
どうでしょう?
動作を行っている人物の心理状態が垣間見れると、場面の雰囲気が伝わります。
今は『台詞』を使って感情を表現しましたが、『描写』でもできます。
タケシは拳を握り、マモルの顔めがけて突き出した。
渾身の力でだ。
しかし、マモルはそれを寸前で避けた。
タケシはそれを見て、にやりと笑った。
タケシはもう一度マモルを殴ろうと拳を振り上げた。
その時だった。
先にマモルが殴ってきた。
今度は「にやりと笑った」と、タケシの表情を描写することで、タケシの心理状態を表そうとしました。
台詞、しぐさ、表情等で、動作人物の心理状態を小刻みに伝えることができます。
それが分かると物語に入り込みやすくなります。
そして、ここぞという場面では、
タケシは拳を握り、マモルの顔めがけて突き出した。
渾身の力でだ。
しかし、マモルはそれを寸前で避けた。
タケシはそれを見て、にやりと笑った。
俺のパンチをかわすとは……。
こいつは少しは楽しめるかもしれない……。
タケシはもう一度マモルを殴ろうと拳を振り上げた。
その時だった。
先にマモルが殴ってきた。
タケシの“内なる声”を追加しました。
どうでしょう?
もっと小説らしくなったと思います。
登場人物の考え、感情、心理がストレートに入ると、リアル感、臨場感が増し、読者が登場人物に感情移入できるようになります。
今私が書いたものは『描写』『説明』『台詞』では区分できないものです。
でも、私はこれで“小説”が成り立つことを確信しました。
私が書いた文章を、動きを軸に観ると、どうゆう役割をもっているのでしょう?
つづく……。
作者ページ
蒼井シリウスさんの日記
シリウスの小説執筆方法論 第4回
[作成日] 2014-04-26 10:18:22