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蒼井シリウスさんの日記

ベリーショートショート その9
[作成日] 2014-09-18 08:03:29
『約束』2/2 

先生が入ってきて、早足でベッドに近づく。
母の手首に指を回す。
「何分?」
看護師に訊いた。
看護師が胸を押す手を休め、腕時計をみる。
「三分です」
先生が人差し指を立てた。
看護師は、また母の胸を押し始めた。
こうなったときのことは、先生と話がついていた。
「延命措置はしない」と。
その一本の指の意味するところはわかる。
なにやってんだよ、親父はよ!
間に合わねえよ!
早く来いよ!
俺は母の顔と病室の入り口とを交互に見た。
先生が腕時計を見た。
看護士は母の胸を押しながら、先生を見つめている。
先生は、腕をゆっくりと下ろと、わずかに首を振った。
看護士の動きが止まった。
電子音がやけにうるさかった。

姉が母の脇に突っ伏して声を上げてオイオイ泣き始めた。
俺は枕元のベッドのフレームを握りしめた。
唇に力を入れた。
さっきから口角が勝手に下がろうとしている。
それにあらがった。
なおも、ものすごい力で口角は下がろうとする。
その攻防で、唇の端がが小刻みに震えた。
目も閉じようとしている。
それにも抵抗した。
でも、目をつぶらないようにするのは不可能だった。
ただ、閉じてもすぐ開くように努めた。
次第に目を閉じている時間の方が長くなった。
そうやって耐えようとすればするほど、今度は頭が垂れる。
だめなんだ。
もう、そうゆうようにできているのだ。
俺は諦めた。
口がいきなりへの字に折れ曲がった。
目がこれ以上ないほど強く閉じられた。
のどがヒクヒクとしゃくりあげる。
許されたからこうしているのではなかった。
これは、大人の男でも耐えられないように、はじめから出来ているのだ。

体がいうことをきき始め、手の甲で頬を拭っているときだった。
病室のドアが開き、親父が入ってきた。
何事もなかったように、ゆっくりと。
「なにやってんだよ!」
俺は声を張り上げた。
「こんなときに、なにやってたんだよ! 見ろ! もう死んだんだぞ!」
親父に掴みかかった。
「やめて!」
姉が後ろから俺の手を引っ張る。
親父が口を開いた。
「もう、泣き終わったか? これから忙しくなる、母さんの荷物をまとめよう……」
俺は親父を見つめた。
親父の赤く腫れたまぶたと、充血した目が、俺に説いていた。
馬鹿だ……。
掴んでいた手を緩めた。
親父は、俺との約束を守ったのだった。


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