『100円で買えるもの』
私が中学生の時の話だ。
家の中で母親が履いていた100円ショップで買ったスリッパの底が剥げてパカパカになった。
私はそれを見て
「どうせ100円なんだから、また100円ショップから買ってきたらいいじゃん」
と母親に言った。
「それも、そうね……」
と母親は答えた。
次の日、母親は100円ショップから買ってきた瞬間接着剤でそのスリッパを修理していた。
(コスパはどっちがいいの?……母さん……)
完
『シンプルな小説』
私が社会人になってからの話だ。
作家志望の友人が私に一枚の原稿を見せて、得意げに言った。
「突き詰めると、小説はシンプルで読みやすくなければならないという結果に至った。出来たんだ! 俺の最高傑作が!」
その原稿にはこう書いてあった。
『カリバヤマルクト歴1025年。
ロバート山田がシュケルマの森に向かった。
そこで、ミメルダを怪物ゲジャランダーから助けた。
これで、タカンボの国にやっと平和が訪れた。
ロバート山田はサガトバの国でミルファと幸せに暮らした。』
私はぽかんとして彼に訊いた。
「はあ? 何が何だかさっぱりわからないんだが……」
「当たり前だ! この小説を理解するには、まずこの世界観を理解しなければならない!」
彼は怒ったようにそう言うと、私の前に山のような原稿を、どさっと置いた。
「ここにその世界観が書いてある! まずこれを読め!」
(それを含めての小説だろうが……友よ……)
完
作者ページ
蒼井シリウスさんの日記
小噺集 その2
[作成日] 2014-01-10 15:05:58
日記へのコメント
コメントありがとう瑠衣さん。
そうですね、ほとんど経験談です(笑)
突き詰めると、本人が気付かない真面目な勘違いが一番面白い。
そうですね、ほとんど経験談です(笑)
突き詰めると、本人が気付かない真面目な勘違いが一番面白い。
はじめまして、ども。
これだけの長さでクスッと笑えるセンスを感じてコメント失礼します
経験談かな、と思われるリアリティーと安定感にハマりそうです
色々思い出されましたね
私は過去に100均で買った手袋の片割れをなくし、新しく買ってそのうち一つと古い方を組み合わせて使っていたな、とか
なぜ先に手に入れ用いた目の前のものを最上だと考えるのか
愛着?
効率のよさはそういう時だけ無視される
いや、面白い
小説の方はいつかプロットだけ書いて満足する友人に「これを原作にしてなんか描いて!!」と言われたなあと
素敵な小噺これからも読んでみたいです
ではでは