『殺意』
高校生の時の話だ。
テレビで私が一番好きな映画を再放映していた。
「くそっ、遅かったか! ルパンめ、まんまと盗みおって」
「いいえ、あの方は何も盗らなかったわ。私のために闘ってくださったのです」
「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました……」
「は~い、前を美人が通りますよ~」
初めて母親に殺意を覚えた。
完
『ママ』
彼女と歩いていたときだった。
急用を思い出した。
明日の取引先との接待の人数変更を店に伝えなきゃいけなかったんだ。
俺は彼女に「ごめん、ちょっと急用の電話するね」と言って、その場で携帯から会社でいつも使っている高級スナックに電話した。
「あ、ママ、ごめん、明日の話だけど、連れていくお客さん、3人から5人に増えたんだ、大丈夫かな? うん、そう、やっぱりママだね、ありがとう。ママのあの手料理もお願いね、あれ、俺、好きなんだ。うん、じゃ明日ね、ママ」
彼女は俺を見つめると、首をゆっくり左右に振り、後ずさりした。
完
作者ページ
蒼井シリウスさんの日記
小噺集 その5
[作成日] 2014-01-11 18:03:14