『初めての授業参観日』
「はい、この問題わかる人?」
新任の若い女の先生だった。
「はい!」
「はい、タカシさん」
タカシの答えは間違っていた。
「ばか、そんなんじゃだめだ」
教室の後ろで見ていた子供の父親らしい人が舌打ちしながらつぶやいた。
「はい、じゃ、ほかにわかる人?」
「はい!」
「はい、ハルカさん」
ハルカの答えも間違っていた。
「ばか、だから違うんだって」
また同じ男が、いらだたしそうに言った。
「じゃ、ほかには?」
「はい!」
「はい、ミノルさん」
ミノルの答えは正解だった。
「ばか! 何度言えばわかるんだ!」
また同じ男が悪態をついた。
それを聞いていたミノルの母親が言った。
「うちの子は正解したんです。ばか、とはなんですか?」
「失礼しました、あなたの子供に言ったわけではないのです。私の子供の教え方がなっとらんと言ったのです」
完
作者ページ
蒼井シリウスさんの日記
小噺集 その10
[作成日] 2014-01-20 12:37:53