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美しいと思われる感情を任意に選んで、それぞれに表情を与えてゆくのが、彼女の主な仕事である。第三者への委託となる関係上、当人の意図する処とは無関係に発展する事も度々で、その場合、誰かのインスピレーションとして、彼女の名は事実上伏せられる。
幸いにも、彼女の意図が、第三者へと通じたうえで契約成立となったにせよ、その事実、及び内容については、成立の時点で、それぞれの当事者にのみ知らされ、一般にその名が公になる事は、まず無い。
“詠み人しらず”
大概は、契約成立の事実さえ気付かれる事もなく、従って、契約の内容そのものが、当事者にも全く不明のままであるケースが殆どである。
“詠み人を知らない”
しかしながら、契約成立を以て自身の仕事を終了とする彼女にとっては、もはや一切関知する処ではない。
“本当に！この、あり得ない果実の熟れてゆくさまと言ったら、喩えようもない程ですこと”
花を揃えるほどの姉妹が、彼女には居るはずであったと仮定したうえでの、これは、未だ有効な手口の一編。