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鷗外の美しき庭
最近、朝井まかてさんの小説「類」を読みました。
類とはかの文豪森鷗外の末っ子の森類さんのことです。
私は鷗外の長女で作家の森茉莉さんの大ファンで彼女の小説、エッセイはほぼ読んでいて、その中にも類さんは時折登場してきました。
ただ、茉莉さんや同じく作家で次女の小堀杏奴さんに比べて影が薄い…というか不見識だったので、この小説で目から鱗が落ちたような気がしました。

類さんは腹違いの兄で父譲りの秀才医学博士の於兎や、天性の才能を持つ耽美作家の茉莉や、絵画やエッセイの才能がある優等生の杏奴に比べて
「今まで何も為す事ができず何者でもない自分」に苦しみ続けます。

その彼が如何に両親、兄、姉たちを見つめていたかがまるで美しい映画のように私の目の前に浮かんで来たのです。

茉莉さんは意外にも人情家で温かいひとでした。
よく言われるように風変わりな奇人ではありませんでした。
杏奴さんと類さんがパリで恋人同士のように仲良く留学していたことも知らなかったし、またそのあとの決別も知りませんでした。

驚いたのは、悪妻で有名?な鷗外夫人のしげさん。
彼女は元々鷗外の大ファンで、鷗外に勧められて小説も書いていた作家さんだったのです。

そして、類さんはこれら多才な家族に囲まれ、劣等感と闘いつつ、懸命に生きたひとでした。
森鷗外の美しい庭の番人であり続けたひと…と私は解釈しています。
小説ではありますが、森家の人々が鮮やかに甦る…そんな素晴らしい作品でした。





[作成日]2024-03-26
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