第5回 官能小説コンテスト 審査員総評

選考会のようす

■ 総評 審査委員長小林弘利先生

ハードル。というものがあると思うのです。
人と人が体を合わせるとき、そういう関係になるまでに、幾つものハードルがあるはずなんです。大抵の場合、出会ってすぐに肉体関係にいたり、しかもその流れの中で女性が絶頂を感じる、ということはないように思います。
特殊なケースにおいてはそういう事例もあるでしょうが、それはあくまで例外だと考えます。
人と人とが体を許し合える関係になるまでにはいくつものハードルを超えなければならず、それは官能小説においても物語のフックになったり障害になったり、「焦らし」になったり「ドラマ」になったりする要素のはずです。
けれど今回の候補作はいずれもそのハードルがとても低い。あるいは設定すらされていない感じでした。
出会ってすぐにキスをして「あん」とその気になって「もうこんなに濡れてる」となる感じです。
そんなにイージーでいいのか、と思います。まるで物語のために必要だからセックスさせられている感じ。お手軽なAV感覚です。
官能小説だから性愛場面はふんだんにあったほうがいい。
だから高いハードルを設定してしまったらそれを乗り越えるまでの紆余曲折を描かなければならず、性愛場面がなかなか書けなくなるし、読者が望んでいるのもそういう場面のはず。
だから面倒な手続きはすっ飛ばしていきなりセックスさせちゃうのだ。という作者の側の都合で物語が進んでいくように思えます。
その時、登場人物たちは「人間」ではなく「操り人形」になっています。操り人形が喘いだりしたところで、さして官能は盛り上がらない(一分のフェチの方にはだからこそ興奮できるのかもしれませんが)。
今回の応募作全般を通して感じたのはそういうことです。
それでは一作品ずつの感想に移ります。

隷吏たちのるつぼ

今回の第一位に選出されましたが、それはミステリーベスト10でいわゆる「いやミス」が1位になった、という感じです。
これはこれでもか、というほどの加虐趣味にあふれた作品。
性愛によってアブノーマルな世界に堕していく人間を見つめるのはいいし、狂気に落ちていくさまを見せるのもいい。
けれどこの作品に欠けているのは正気と狂気、ノーマルとアブノーマルの境界線上でぎりぎりふんばろうとする理性です。
超えてはならない一線。それを超えてしまう瞬間。アブノーマルな世界へと落ちていく自分を許してしまう、その瞬間。
それこそが作品の要であり、読者を作品世界へ引きずり込んでいく鍵だと思うのですが、この作品の二人のヒロインはどちらもその「ぎりぎりふんばる理性」を見せてくれませんでした。
そういう場面はあるにはあるけれどもっと踏み込んだ筆致が欲しかったように感じます。いとも簡単に狂気に落ちてしまう。
それが他の作品にも感じたハードルの低さ、です。
この作品は媚薬という魔法で高嶺の花の女性たちを狂わせていきますが、それがなんとも安易に感じました。
加虐シーンの描写力は上手なので、今後はもう一歩、人間の理性からタガが外れていく様子をじっくりと見つめて欲しいと思います。

それを、口にすれば

スワッピング、というのは官能的なシチュエーションだとはあまり思えませんでしたが、物語が終始、ひとりの主婦の心の動きに寄り添っていて、起こる出来事も日常の隣りにある非日常というものを上手に描き出していたと思います。
主人公が結城という男に惹かれていく様子はよくわかるのだけど、結城のほうがなぜ主人公を「特別」だと感じ「ルール」を逸脱していったのか、そこがもう少し描き込めていたら良かったと思います。
脇の最低な人間たちが本当に最後まで最低だったのは良かったです。
珍しく「匂い」を描こうとしていたり心と体の乖離を描こうとしたり、そういう部分を僕は評価します。
狂ってしまう。その状況を提示しながら狂気に落とさなかったのは作者の筆力の限界なのか、やさしさなのか、どちらにしても理性と狂気の境界線を踏み越えようとする作劇は好きです。
去年の講評で書いたのはこういう作風を求めていた、ということだと思います。ただし、だからといってこの作品が最高に面白かった、というわけではないし、官能小説として上出来だった、とも思えません。
性愛場面に愛と優しさと一体感が描かれ、それが暴力的に破壊される展開も良いのですが、それらの場面の描写力、官能度はいまひとつだったように思います。

琥珀色に染まるとき

官能小説というよりも恋愛小説としてよく書けていると思います。
性愛場面も男性目線の加虐的な言葉や描写が避けられ、とても品がありました。
ボディーガードとしてのヒロインの立たせ方にもうひと工夫欲しいと思いましたし、偶然に頼りすぎている作劇も気になりましたが、ラブストーリーというのはそういう偶然という名の運命を描くものでもあると思うので許容範囲です。
官能小説、としては性愛を中心にした話ではない、という部分で減点ですが、他の作品とくらべて筆力の高さを評価したいと思います。

女王のレッスン

基本はハウツー小説でした。ハウツーとしては存分にその要求を満たしていると思います。そして物語の中心に性愛がある、という部分が良かったです。
さらに緊縛場面で最も大事にされるのが愛と優しさと相手へのリスペクトである、というのもSMという世界から想像される加虐的な描写よりも大事にされているのが良いと思いました。
その分、物語がフラットで盛り上がりやひねりがなく一本調子であったとも思います。そしてこれは他の候補作も同じですが日常の場面での同僚や友人との会話がつまらない。
こういう余白部分の会話に作者のセンスや人間観察力が現れます。もうすこし日常を面白く描くことに気持ちを向けてもいいと思います。
そうするからこそ秘められた世界、非日常の世界、性愛に溺れていくトリップ感が浮かび上がってくるからです。

桃色フラストレーション

女性目線で語られるのがいいと思うし、性愛を中心とした話になっていることも好印象。
そしてじつは光は、という展開も少女小説のような単純明快な女子の願望充足小説として、きちんと機能していると思います。
ヒロインが出会う人にモテまくるのも、やはり願望充足に徹していてそれがわかるけれど小説として物足りない印象でした。
登場人物たちに嫌味がなく加虐も被虐も適度なマイルド感があり、素直に読めました。けれどそのマイルド感が逆に物足りない。
エロい、エロい、と繰り返されても読みながらエロい気分にはなれなかったのは、やはり登場人物の個性がマイルドで、出来事に対するリアクションにも意外性がなくありきたりな印象だったからだと思います。

愛しい記憶

高いハードルが設定されていました。それは近親相姦。そして、この世のものではない人との性愛。
これはだから「愛の狂気」を描くべき作品で、なんども「狂ってる」という言葉が出てくる。
つまりこれは「性愛と言う名の狂気」を描かれている。なのに文章のスタイルをポエム風にしたことで、狂気が薄まりました。
こういう狂気というのは幽霊を抱いているトモヤをカエデが目撃しなければならないし、姉弟が愛し合う姿を目撃した母親の衝撃をもっと描かなければならないのです。
そういう第三者の目にどう見えているかを描くことが、このふたりが「ふたりだけの世界」に逃避せざるを得ない状況を作るからだし、読者もそこに共感を求めるわけです。
誰にも祝福してもらえない純愛。このせっかくのシチュエーションを「ムード」のみで乗り越えようとしたことが残念でしたが、とは言え、ウエブ小説の場合、そういう散文的な書き方が逆に読者の想像力を掻き立てるようにも思うのでB−としました。
けれど、やはり設定したハードルをもっと有効に使い「抱きたいのにそれができない」心理をもっと描きこんだほうがいいように思います。
トモヤのカエデに対するひどい扱いも、彼が「狂気」に落ちていることの現れだと描きこまないと、終始、自分の気持ちしか考えていない愚か男という印象になってしまいます。

17歳の寄り道

いたずらに物語を引き延ばしている感が強く、物語として必要のない挿話が多すぎるように思いました。
登場人物の性格づけも都合のいい人しか出てこない印象で、ドラマとして描く部分をあっさり処理して、わざわざ描きこむ必要のない部分を細かく書き込んでいるように感じました。
本来、物語の中心に置かれるべき性愛場面も脇役で、描写も淡白でリアルでもロマンチックでもエロくもなかったです。
ただ、淋しさや不安を忘れたくてセックスにしがみつく少女、というのはとても良かった。もっとこの少女に寄り添い、その心の深みに目を向けてほしかったと思います。

素直になれなくて

普通の恋愛小説でした。しかも障害、ハードルがまったくないラブストーリーなので官能的とは言えない仕上がりだと思います。
セックスに至る男女の間にハードルが設定されていないものが多い、という全般的な印象のなかにあって、この作品は最初からキスしたらすぐに「あん」となってそのまま事に及んでしまう。出会ったその日にいきなり、です。
すぐに死んだはずのかつての恋人だった、と明かされはするものベッド・インするまでのハードルの低さは上位クラス。その後の展開も好きな者同士がセックスする描写のあるオフィスラブ小説。
会社の人達もみんなふたりを応援しているいい人たちで、障害となって立ちはだかる、という設定の悪役たちが物語を無理やり波乱に持ち込んでいく感じ。
セックスが物語の中心になっていない。
あくまでも官能小説としての体裁を持たせるための彩りでしかない、その性描写にも工夫が感じられず、ロマンチックさが欠如している。
小説としても一人称と三人称の使い分けが雑なので、読みにくい箇所がいくつか散見された。
後半のいきなり不治の病だった愛する人が暴漢に殺されてしまう、というのも『君の膵臓を食べたい』かなあ、というかラノベ的。
結婚式にいきなり登場するヒロインの両親も、出すならもっと前にヒロインを支える役割を与えられていてもいいように思う。と、欠点ばかり上げたのはこの作家さんに可能性のようなものを感じるからです。
一般小説として描き足りていない。官能小説として描き足りていない。けれど、それはどちらかに軸足をしっかりと下ろせばいいものが書ける技量がある、ということのように感じたからです。

キズナツナグモノガタリ~誠の男と性の少女~

官能小説、というよりもラノベ、と言った感じですが、文章が小気味よく、また性愛場面にもお互いを思いやる気持ちが強く描きこまれていて好感が持てました。
剣戟のシーンを小次郎目線ではなく楓花目線で描いたら、もっと官能小説っぽさが強まったのではないかと思います。
つまり、この小説はきっと小次郎を語り手にするからラノベ感覚になったので、楓花目線なら官能小説になったんだろうと思います。

イケないキミに白い林檎を

青春小説として完成していました。過去にトラウマを持つ少女がそれを乗り越えていく姿を描く物語はよかったと思います。
しかし官能小説にしようとして無理に多用される性描写が邪魔な印象でした。
どの男たちも行為の最中に言葉責めにするので、誰とセックスしても結局同じ場面の繰り返し、という印象になっています。せめてソラ先輩はそうではないセックスをしてほしかったと思います。
セックスってもっとロマンチックだったりやさしいものだったりするのではないでしょうか。
なんか成人漫画で使い古された「もう濡れてるのか。いやらしい女だな」というような男ばかりでうんざりします。
また記憶喪失とか過去のフラッシュバックとか接触恐怖とか、そういう事に苦しんでいるのならセラピーを受けたらいいと思ってしまいます。
その担当セラピストによって過去のベールが一枚一枚剥がされていく、というようなサスペンスに仕立てたほうが、ソラ先輩が「君が大事だから話さない」と真相を焦らし続けるよりも物語に面白みが出たように思います。
風子がバイブも知らないような女性なのに「肉便器」みたいな言葉を使うのにも違和感がありました。
ソラ先輩やその友人たちは面白いキャラだと思いますが何よりも風子と颯太にリアリティーを感じられないまま物語が進むのが残念でした。颯太のどこがそんなにいいのかわからなかったので。

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■ 総評 神田つばき先生

作家さんの日々の努力と読者のみなさんの応援によって、このコンテストも第5回を迎えましたこと、携帯小説ファンとしても官能系ライターとしても、とてもうれしく思います。はじめて携帯小説を読んだ日のわくわくを思いおこしながら、新鮮な気持ちで審査させていただきました。
 審査にあたっては「官能/物語」という二つの観点から評価しますが、第4回では官能描写そのものが希薄であったり、そのボリュームが少ない小説が目につきました。その点、今回はじっくりと丁寧に濃密な時間を描いている作品がふえました。行為を描くことによって物語の品位をそこねることもなく、作者の皆さんが苦心して言葉を紡いだ成果がよく表れていたと思います。
 そのいっぽうで、文章力はあるが物語そのものの起伏は今ひとつ、という作品が目につきました。奇想天外な設定や非現実的な世界観という意味ではありません。舞台は日常生活そのものであってもいいですから、読者の意表をつくような展開を見せてほしいのです。
 前回、「悪役を魅力的に描ける人はおもしろい物語を創ることができます」と要望を書きました。今回はその願いをみたしてくれる作品がいくつか誕生し、悪の華の色香を愉しむことができました。
現代のわたしたちは「今日は更新されているかな」と期待してスマホを手にしますが、昔は連載小説をたのしみに新聞を読んでいた人がたくさんいたことでしょう。新聞連載から書籍化された小説には優れたものがあります。

〇谷崎潤一郎『痴人の愛』 1924年(大正13年)大阪朝日新聞に連載、いったん中断を経て同年、雑誌『女性』に掲載、改造社から単行本化。
〇ジョゼフ・ケッセル(堀口大學・訳)『昼顔』 1929年刊行。

 100年近くまえに書かれた物語ですが、展開があざやかで、どちらも映画化されていますし、今読んでも少しも退屈しません。行為そのものの描写こそありませんが、とても官能的で五感にうったえかけてきます。
 『痴人の愛』も『昼顔』も悪いやつ、堕落していく者を魅力的にいきいきと描いています。犯罪や背徳を描くことがよいというのではなく、人間をしっかり描こうとすれば、社会においては誰もが隠している影の部分をも表さなければ不完全だからです。
 ときには応援してくれる読者の心を裏切るような展開を書かねばならないこともあるかも知れません。しかし、多くの物語はこうして強い力をもち、いのちを得て長く読まれ、書籍や映像になっていくのでしょう。
 今後も「官能」を緻密に彫りつつ、「物語」を大胆に動かしてくださいますよう、作家の皆さんに期待しております。

隷吏たちのるつぼ

まずは言語センスの高さで群を抜いており、作者の造語をふくめて愉しませてもらいました。それでいて美的に溺れず、征四郎というモンスターを創りだしたところに作者の自信と力量を感じ、感嘆します。
およそ女性読者に好かれる要素はない、この「黄ばんだすきっ歯」の男に母への恨みというコンプレックスを与え、従来の携帯官能小説にはいなかったダークヒーローを誕生させました。こんなにも醜悪で、同情の余地がなく、それでいてこんなに気にかかる悪役がいるでしょうか。桐野夏生先生の『残虐記』に登場する卑劣な誘拐犯・ケンジを思い出しました。
また今回、「秘密」を軸に展開するストーリーが多いなかで、無垢なヒロインが友人を陥れるまでに淫欲に溺れる、その説得力の強さ。ヒロインもまた男尊女卑な父親によって傷つけられていること。中央の伝達が行き届かない地方の公務員の閉塞感。前半での精細な描きこみが、智咲の堕落をカタルシスにも見せていて、ピエール・ド・マンディアルグの『城の中のイギリス人』に匹敵するパワフルな官能に屈服です。

それを、口にすれば

妻を蔑む夫の態度とセリフにリアリティがあり、小説としてしっかり成立しています。理沙子の変容がとくにおもしろく、人間の醜さと清らかさを同時に描こうとする作家の意欲を感じますし、おもしろい綾となっています。団鬼六先生の『花と蛇』の調教ショーのシーンを思わせる、これでもかというほどの倒錯した官能が描けていました。ラスト、結城が救出に現れてからが急すぎる感はあり、ここに少し余裕があるとなおよかったと思います。

琥珀色に染まるとき

前回の講評に「アウトプットだけでなくインプットにもっと時間を割いてほしい」と書きましたが、たとえばこの小説のように「ビル・エヴァンス」に「モルトウイスキー」が登場すれば、それだけで世界が広がって映画を観ているような気分で読めるものです。今、注目されている民間SPという職業もふくめ、ふだんから情報収集し、設定を練って書いていることがうかがえます。男性のセリフにリアリティがあり、携帯小説によくある都合のよさ、展開の甘さを回避できています。観念的なセリフが長く続く箇所があるので、そこは少しメリハリがほしいところ。

女王のレッスン

ここまで緊縛の手法を精細に書いた小説はなかったと思います。海外でも緊縛のワークショップがひんぱんに開かれ、現代アートとしても認識されている今、緊縛体験から官能ライターに入っていった自分としては、とてもうれしく思います。「緊縛」「SM」というと力んだ設定から入る作家が多いなか、日常的な光景から書き出す文章のうまさにも舌を巻きました。あえて難点を言うならば、前半ほとんど視点が変わらないところ、場所の変化に乏しいため意外性が乏しいところです。最初の彼氏はキャラクターがよかったので、何か思いもかけないかたちで後半に登場してもよかったかも。
ぜひまた緊縛小説を手がけてほしいです。期待しています。

桃色フラストレーション

すんなりした話だが官能描写が多く、女性のためのベッドサイドストーリーとして優秀だと思います。性欲も興味も強いヒロインをステロタイプにせず、行為中の心理もしっかり描いています。ラストがシンデレラストーリーになるのはいいとしても、シンガポールに到着してからの光のセリフが説明的に感じました。千代の疑問を地の文で語らせて、光がセリフで解き明かす、というような処理をするだけでもっとおもしろくなると思います。

愛しい記憶

既存の(男性向けの)官能小説やAVは男性がどんなふうに感じているか、の描写が少ないので今ひとつのめりこめませんが、この小説は肉体的にも心理的にも男をきちんと描いていて、深く愉しめました。ジャンルを「その他」としたことで一部から批判があったようですが、私はこれでいいと思います。おとなであれば「これは自分にはそぐわない」と感じた時点で読むのをやめればいいのです。また、最後でドタバタと辻褄をあわせてハッピーエンドにする作品が多いなかで、沈痛なまま世界を閉じた結末にも作者の底力を感じました。審査も終わった今、もう一度、今度は自分のために読みたいです。

17歳の寄り道

ノミネート作品中、最大のデータ量でしたが私は一気に読めました。その理由は、ただ群像的に高校生の性を描くだけでなく、経験によって変わっていく少女たちの心―たとえば最初は緊張と不安だけだったのに、少しずつ女としての自信を得ていくような描写―を新鮮に感じたからです。これだけの人数が登場するのに、性格の書き分けもしっかりしていて魅力的でした。
個人的にもっとも感情移入した登場人物は藤田先生です。ふり払ってもふり払っても静かに積もりつづける中年の心の疲労のようなもの、がよく描けていました。今後も、性の経験によって変化していく女性像を描いてください。期待しています。

素直になれなくて

田坂が隣室に住んでいて、しかも滝島だった……という設定はおもしろいと思います。「あと3ヶ月名乗りでることができない理由」も筋が通っています。が、そうなるとそれより前のシーンで田坂がガンガン迫ったことが不自然になってしまうのです。前半の「迫り」を田坂の意志ではなく、偶然にそうならざるを得ないきっかけを複数作ったほうが感情移入して読めたと思います。悪辣なクライアントによる罠も短絡的な感じがするので、もう少していねいに書くとエンディングが活きたと思います。

キズナツナグモノガタリ~誠の男と性の少女~

性エネルギーによる変身ヒーロー、というのは映画『電エース』(河崎実監督)などがありますが、少女が発電して少年がその力を用いる、というのは新規性があると思いました。初体験後、少女のパワーが変化していくというのもおもしろかったです。しかし、少女がただひたすらエネルギーを作りだすだけなので、人格を感じることができず感情移入できませんでした。サブタイトルの「性の少女」も雑な印象です。誤字も目につくので、推敲をていねいにして、せっかくの設定を活かしてください。

イケないキミに白い林檎を

官能描写はたっぷり書けていますし、ヒロインの背徳的なアクシデントからはじまる冒頭が新鮮で、期待をそそられました。ところが、主人公が悪い女でもなければ、一途な可愛い女とも言いきれず、存在感のあやふやな子になってしまったのが残念です。謎が解けていくストーリーの骨組みはしっかり組んでいるので、風子、塑羅緒、颯太のキャラクターをそれぞれもっと濃くして、インパクトある肉付けができればよかったと思います。

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■ 総評 大泉りか先生

まずはじめに、第5回官能小説コンテストの最終選考にノミネートされた皆さま、そして受賞された皆さま、おめでとうございます。
さて、総評に代わりまして、今回は官能小説を書く上で、先輩作家やベテラン編集者の方々から受けた、いくつかのアドバイスをご紹介したいと思います。
ひとつは「官能小説は、作家自身が最も恥ずかしいと思うことを、書かなくてはならない」ということです。作家本人の持っている、あさましく愚かで、端から見るとみっともなかったり、変態だと謗られるような、性癖や性欲の形を勇気を出して、露わにして描かないと、読者を納得させ、唸らせるような作品にならないというのです。もちろん、“優れた官能小説”というものについての持論は人それぞれであって、必ずしも作品に描かれているセックスが、作家本人の性向と同じ必要はありませんし、テクニカルに、エンターテインメント作品を作ることを目指すことが不正解というわけではありません。けれども、「作家自身が最も恥ずかしいと思うことを描く」ことは、“人間の業”を炙りだすひとつの手法であることは、確かだと思います。
ふたつめは、「濡れ場の内容に、バリエーションを持たせること」。もちろん長さにもよりますが、官能作品である以上、長編作品であれば、複数回の濡れ場が登場することになると思います。その濡れ場が、毎回同じような体位や場所、展開では、どうしてもマンネリ・単調になってしまいます。行為の過激さをエスカレートさせていくことで、ヒロインの魅力を開花させると同時に、その悦びを読者に疑似体験させることが出来ますし、また、濡れ場ごと別の女性を描く場合でも、「この女性ならば、こういうセックスをする」ということを頭において、ひとつの場ごとに印象深いセックスを描くことで、さらにキャラクターが生きてくるのです。
みっつめは、「作家自身が興奮できる作品であること」。ぶっちゃけていうと、濡れ場を描いている間に、作者自身がムラムラして、ついオナニーをしてしまいたくなる作品であるかということです。実際に我慢が出来なくなり、描きながらしてしまったというのならば、それは素晴らしい作品だと思います(ただし、オナニーして達した後はテンションが下がるので、なんとか我慢し、書き終えたところで、パンツを降ろすことを、個人的にはオススメします。「一発抜いたところで、テンションは落ちないよ」という人はオナニーしちゃってもいいと思います)。
なぜ、こうしたことを総評で述べているかというと、「官能小説」という観点からすると、今回の応募作品の多くは、残念ながら、濡れ場のエロス、迫力、凄みが、少し物足りなかったように思えるからです。毎回言われていることだと思うのですが、どうしても「官能小説」ではなく「恋愛小説」に寄った作品が多く、今回は特にその傾向が強いように思えました。恋愛小説が悪いわけではありませんし、そもそも性愛と恋愛はとても近しいところにあります。ゆえに恋愛小説をベースとして、官能を描くことはまったく間違っていません。ネット上で連載をする場合に「恋愛小説」は、読者の共感を得やすいことや、とっつきやすさから考えて、正しいのかもしれません。しかし、残念なことに性愛部分が置いてけぼりになってしまっている作品が目立つのです。性愛部分にきちんと実用性(=オナニーが出来る)があるかをいま一度、考え直してみると、一枚殻を破ることが出来るかもしれないと思います。

隷吏たちのるつぼ

過去4回の間に送られてきた凌辱系の作品の中では、筆力がもっとも高いのではないでしょうか。ふたりのヒロインのキャラ立ちはばっちりですし、プレイがバリエーションに富んでいて、物語が進むにつれてエスカレートしていくのも、きちんと官能小説の定石を踏んでいると思います。汚物については、もしかして拒否反応を示す読者の方もいるかと思いますが、そもそも各々の性欲に基づいて読まれる官能小説は、すべての読者を満足させることに無理がある。ならばこれくらい行き切ったほうがインパクトを与えられます。文句なしの大賞作品です。おめでとうございます。

それを、口にすれば

スワッピングという、誰がどう見ても、エロス/官能を主軸においたストーリーでありながら、濡れ場以外のエピソード部分も、面白く、本当にちょうどいい長さと展開の具合で描かれていること、また、文章力の高さから、とてもいい意味でストレスなく、すらすらと楽しく読める作品です。濡れ場もしっかりと描かれていて、「官能小説」の公募に応募するに、相応しい作品だと思います。キャラクターもみな個性が立っていて、各々がその行動に至る必然性がきちんと読み取れ、そのおかげでイキイキと自然に、物語のなかで動いており、とても魅力的でした。文章力も高いですし、大賞を取ってもおかしくない作品だったと思います。タイトルも作品のキモを表していて、上手いと思います。

琥珀色に染まるとき

力作ですね。ストーリーがよく練られていますし、たくさんの伏線がきちんと回収されるのも、とてもよかったです。ヒロインは、複雑な過去を持ち、傷を持った女性という設定ですが、その割にはあまりセックスにトラウマがないふうなのが、ちょっと気になりました。また、セックスシーンに展開が少なく、単調で物足りなさも感じました。全体的に少し冗長にも感じられたので、もっとページ数をつめたほうが、さらに読みやすく、内容の詰まった作品になったようにも思えます。

女王のレッスン

とても面白い作品でした。このような応募作品は初めてではないでしょうか。作者自身のリビドーや性欲、そして伝えたいことがしっかりと感じられる作品です。SM・緊縛師の世界について、相当きちんと取材がされているところも素晴らしいと思います。いったいどこで取材をしたのか気になります(笑)。主人公たちの言いたいことを、そのままセリフで処理していることが多いですが、それをエピソードやちょっとした行動で表すことが出来ると、より説得力が出ると思います。

桃色フラストレーション

テンポのいい作品です。濡れ場もたっぷりで、作者のサービス精神に好感が持てます。ちょっとご都合主義なところ(ヒロインがモテすぎ等)が多々あるのが気になりましたが、読む快感や楽しみを、第一に置いてあるということを考えると、許容範囲の範疇だと思います。タイトルもいいと思います。たったふたつのセンテンスでしっかりと内容を表していて、センスがあると思います。

愛しい記憶

サスペンス仕立てで、謎に引かれてどんどんと読み進めてしまいました。近親相姦モノとはまったく想像もしておらずに、素直に驚いたので、作者の目論見は成功していると思います。通常、近親相姦を官能で描く場合は、葛藤とタブーを犯す背徳感がポイントとなってくると思うのですが、この作品では、わりとあっさりと関係を結んでしまったのが、少し物足りなく思えました。多くの人々が経験することのできない、血のつながった身内とのセックスだからこそ感じられる、交わりの快感を書き込んだら、もっと官能作品として優れたものになったのではないかと思います。

17歳の寄り道

ケータイ小説らしい「傷ついた少女」をヒロインにおいた作品ですね。爽やかな雰囲気あり、17歳という年齢ゆえのもどかしさもあり、とても楽しんで読めました。ただ、この物語に、このボリュームが適しているかというと、少し疑問に思うところもあり、ダブルヒロインにするよりも、しっかりひとりの少女の成長を描ききったほうがよかったかもしれません。

素直になれなくて

ティーンズラブの王道的な作品で、テンポもよく読みやすい作品でした。ストーリーにきちんと仕掛けがあることで、興味深く読み進めていけますが、展開にちょっと強引さも感じました。濡れ場もあっさり。「こんなセックス、してみたい!」と思わせるような濡れ場があると、より魅力的な作品になったと思います。

キズナツナグモノガタリ~誠の男と性の少女~

ラノベ風味の作品で、個人的には好みです。ピュアなヒロインをいやらしくする仕掛けが面白い。文章もこなれていて読みやすいですし、キャラクターも等身大で好感が持てます。わたしはこういう作品が好みなのですが、ただ、読み手を選ぶ作品でもあります。個人的には来年もこの路線で頑張って欲しいですが、もしかして路線を変えてみると、さらに高い評価を得ることが出来る可能性もあるかと思います。昨年、ききまろさんの作品に「この路線をぜひ、どんどん極めていって欲しい」と言っておいて、何をという感じですが、筆力がきちんとある方なので、さらなる飛躍を期待しております。

イケないキミに白い林檎を

ふたりの男性の間で揺れる気持ちがよく書けていて、もどかしくハラハラする、恋愛小説の醍醐味がしっかり味わえました。個人的にはヒロインのキャラクターが少し優柔不断に思えて、応援したい! という気持ちになりにくかったのと、彼氏である緒方颯太が、ひたすらクズっぽくて、あまり好きになれませんでした。ヒロインが、ふたりの男性の間で揺れる場合、両方が魅力的であることがマストだと思うので、少し残念でした。緒方のバックグラウンドを語る印象深いエピソードがもう少し描かれていると、よかったかもしれません。

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■ 総評 深谷陽先生

「面白い」って何で出来ていると思いますか?
映画にしろ小説にしろ漫画にしろ、「ストーリー」を持つ作品なら面白さ、とはそのままストーリーの良さ、と捉えられがちで、それはそれで間違いではありません。
何が起きて、何をして、結局どうなるのか。
面白いことが起きるにこしたことはないでしょう。
ただそれは、面白さの「半分」だと思います。
残りの半分は「見せ方」、演出です。
「何を」描くか、と同じくらい、それを「どう」描くか、が大事なのです。
話術を例にするとわかりやすいかもしれません。
ある出来事を他人から聞かされる時、同じ出来事を語っていても、話が上手い人から聞くのと下手な人から聞くのとでは聞き手が感じる「面白さ」は全く変わってしまいますよね。
それは、どこから話を始めてどういう順番で話すかどこを端折って、どこを丁寧に描写するかなどの「構成力」の違いでありどこを早口でまくしたて、どこで間を取り、どこを小声で語りどこで声を張るか、といった「パフォーマンス力」の違いでもあるでしょう。
小説の場合も、小説内で起こる物事の面白さだけでなく全体をどう構成するか、また一行、一語ごとにどんな言葉を選んで表現するか、を大事にしていただきたいというのが今回のノミネート作品を読んで感じたことです。
これは官能シーンの描写に関しては更に顕著に言えることだと思います。
審査会でも、官能描写が画一的で新鮮味がない、という声が多く聞かれましたし僕自身もそう感じました。
ではこれを是正するにはどうすればいいのか。
小道具やシチュエーションや性癖嗜好という、作中の性行為自体に工夫するのも方法でしょうが性行為自体はありふれたものでも、それをどう表現するか、によってより「そそる」シーンにすることは出来る筈です。
例えば、性行為に際して女性が濡れることはほぼすべての作品に登場しますが表現はテンプレが決められているのかと疑いたいほど似通っています。
「蜜壺」という単語はこれから NG ワードにしませんか(笑)
もっと多様な表現があっていい筈です。
問われるべきは作中人物の性的テクニックよりもそれを描写する作者の文章テクニックです。
登場人物が超絶的な舌使いの技巧など持っていなくとも舐める本人が、また舐められる本人が物凄く気持ちよく感じていて、作者がその気持ちよさを存分に描写出来ていれば、それは読者に伝わると思います。
どうか、借り物や使い回された表現ではなく、ご自身が見つけ、また工夫して織り上げた言葉で性愛を表現してください。

隷吏たちのるつぼ

主人公が本当に醜悪で、作品として「好き嫌い」を問われれば、嫌いかもしれません。
でも文章の迫力、官能表現の執拗さ、ノミネート作品の中で、圧倒的に「力がある」ことは否定できません。
主人公が美女を屈服させる決め手が主人公自身の手管や工夫ではなく「東南アジアの謎の媚薬」なところ、屈服後の女性たちのあまりの従順ぶりが少々都合よく見えて残念ではあります。

それを、口にすれば

面白かったです。
特に、ヒロインの夫の憎々しい小悪党感と、一見好人物でいて実はとんでもない隣の奥さんの両悪役が非常に上手く物語をよく転がしていたと思います。
上手にイヤな感じに描けているのでその末路は爽快です。
終盤、助け出されて以降エンディングまでが少々急ぎ過ぎな感も。

琥珀色に染まるとき

バーテンダーは個人的に憧れの職業で、そのせいかキャラクターが魅力的で視点(語り役)の移動も計算されて効果的で、上手さを感じました。
ただキャラクターや舞台や酒、匂いなど道具立ての魅力に対して展開はややもったりとして、もっとスリリングなスピード感があれば…というのが残念なところです。

女王のレッスン

個人的には一番好きな作品です。
「緊縛」というのが自分にとっては全く未知で、それでいて大変興味のある分野なのでヒロインと一緒にずるずると作品世界に引き込まれて行ったような。
非常によく取材されているし、文も好みです。
「愛してる。でもそれだけ」とか「二人だった」とか効かせどころの表現は勿論全体的に、何気ない部分でも感情を言葉に乗せて表現するのが、とても自然で上手い、と感じました。
登場人物たちの「カッコよさ偏差値」も非常に高いです。
ただ、ヒロインが直接体験する部分は非常に良いのですが他の人物の描写は回想の伝聞が多く「今、目の前で物語がうねっている」という迫力にやや欠けた感はありました。

桃色フラストレーション

序盤が気持ちよく軽快に読めました。
ヒロインの欲求が真っすぐで可愛らしくて。
中盤の彼と離れてからの性のエキスパートぶりに少々違和感があったのと「やりたい」から「愛してる」への昇華の過程がもっとじっくり描けていればもっと良かったと思います。

愛しい記憶

行間を空けた描き方、ヒロインの正体や主人公の身の上に起こった出来事の隠し方、見せ方などが丁寧に考えられていて、読みやすく面白かったです。
主人公の抱えた空虚感が、上手く作品全体の雰囲気にもなっていると感じました。個人的には大変好きです。

17歳の寄り道

ヒロインが抱える息苦しさや性欲が瑞々しく描かれていて、序盤大変面白く読みましたが義父に襲われる場面をピークに失速して、その後はひたすら後日譚を追ったようで迫力に欠けたような。
人物の一人一人は魅力的なだけに残念です。

素直になれなくて

最初のセックスが、「ヒロイン簡単にやられ過ぎ感」があって作品全体の重みを欠いてしまった気がします。
視点移動もあまり効果的ではなく、ブレに感じました。
設定も強引な部分が多く、終盤のファンタジー展開も唐突に感じます。
逆に、総評に書いた通り、道具立てやストーリーはこのままでも構成を整えて自分なりの演出や表現が盛り込まれれば数段面白くなるとも思いました。

キズナツナグモノガタリ~誠の男と性の少女~

新選組は魅力的なキャラの集まりで、それをよく勉強した上で上手く自分なりに消化して描いていると思います。
「精神の刀」という設定や武田の伏線回収など、面白い部分も多かったです。
ただ近藤が辻斬りを始める動機が強引というか説得力に欠け、そのせいで物語全体の戦いの必然性が軽くなってしまった気がします。
また性行為のディティールやヒロインの扱いに AV から持ってきたような雑さを感じました。
ヒロインが戦いで性感を感じるのに対して、先代、先々代のヒロインが「くすぐり」と「つねり」という設定もあえて作るのであればもっと面白い選択肢があったのでは。
作者は作品内においては神なので、何をさせてもどんな設定を持ち込むのも自由ですが、人に見せる作品であるなら「作者は何をしてもイイ」の前に「面白ければ」という但し書きが求められると思います。

イケないキミに白い林檎を

ヒロインが複雑な設定を抱えているのに、話がそこに行きつくまでが長く、全体の構成のバランスに難があると感じました。
颯太はイケメンであるという描写はあるけどキャラとしての魅力に乏しく、もっと早くソラ先輩の方に話を展開させて、かつてのヒロインとのドラマや葛藤の部分をもっと掘り下げてほしかったです。

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■ 総評 片桐由摩先生

まず始めに、第五回官能小説コンテストの最終選考にノミネートされた皆様、そして受賞された皆様、おめでとうございます!
私は昨年に続き二度目の審査員となりますが、今年も様々な作品を楽しく読ませていただきました。
「官能」というテーマに対し、なるほどこんな切り口で描くのかと、私も表現者の一人として刺激を受けました。
そうして色々考えた末、私が一読者として「面白い」と感じたものに高い得点をつけました。

全体的に、今年は話のしかけやネタに個人の趣味や思い入れを感じるものが多く、書いた方の情熱に触れさせていただく思いでした。
その反面、「好きなものを書く」に気持ちがいってしまい、官能描写が薄いと感じる作品が多かった気がします。
薄くなってしまった、の方が正しいかも知れません。
その中で江口さんの『隷吏たちのるつぼ』は最初から最後まで一貫して勢いがあり、調教というハードなテーマを上手く生かしてオリジナリティ溢れる官能表現がなされていたと感じました。

書き始めた物語を盛り上げ、終わらせるのは書いた本人にしか出来ないことです。
そんなのは当たり前だよと思われるかも知れません。
でも実際に物語を書いてみると、終わらせるタイミングや、終わらせ方に迷うことはありませんか?
短篇であっても、大長篇であっても、一つのお話を書き上げるということはとても楽しく、同時に難しいことです。
書いているうちにキャラが自分の中で膨らんできて愛着が湧き、やっぱりこうしよう、ああしようと悩むこともあると思います。
その楽しさはとてもよく分かるのですが、注意しないとキャラがぶれてしまったり設定の矛盾を生んだりします。
特にweb小説は「原稿用紙●枚まで」というような制限がなく、書きたいと思えば好きなだけ書くことが出来ますから、締めくくるタイミングを掴みにくいですよね。
ただ作品として形にする以上「終わり」は絶対に必要です。
「終わりよければ全てよし」とまではいいませんが、これから新しい作品を書く方は読者さんが思わず唸るような物語の結末を意識してみてはいかがでしょうか。

隷吏たちのるつぼ

総評でも触れましたが、今回の中で頭一つ、いえ頭三つくらいは官能度が突き抜けていました。スカトロプレイも入るため、読む人を選ぶだろうことは承知の上、ここまで書き切った江口さんの情熱は素晴らしいと思います。
タイプの違うヒロイン二人を快楽の奴隷にしてゆく征四郎はダークヒーローの貫禄さえあり、硬質な言葉選びと相俟って江口ワールドともいえるものを展開していました。
これだけでも充分面白いのですが、欲を言えば媚薬に頼り過ぎたところはあると思います。
特に悠香梨の方は気が強い設定ですから、彼氏などをもっと上手く使い、更なる狡猾な罠で心理的に引きずり落とすような展開も読んでみたかったなというのが本音です。

それを、口にすれば

文章も安定していて、最後まで一気に面白く読めました。最初は明るくフレンドリーだった隣家の妻が実は……そして勤め先も……という流れも巧みでした。
エッチシーンも丁寧に書き込まれており、こういったネタがお好きな方には深く刺さるものがあると思います。
ここからは個人的な我が儘になるのですが、そんな一癖も二癖もある登場人物の中、相手役となる結城がやや物分かりが良過ぎたかなという気もします。
彼も以前は妻と共にあれこれしていたらしいので、優雨に対してもその部分が垣間見えるとキャラに深みが出て、二人の関係も更に濃密になったのではないでしょうか。

琥珀色に染まるとき

文章を丁寧に書こうという気持ちが滲み出ていて、とても好感の持てる作品でした。
ただ本当に、本当に惜しいのですが、ヒロインの涼子が過去にあれだけの凄惨な性体験を受けていながら、西嶋との初めてのキス、初エッチがするすると進んでしまうことに大きな違和感がありました。
フラッシュバックまでいかずとも、無意識に身体が過去を思い出すような描写がもっとあっても良かったのではと思います。
結果として、彼女が何と対峙しようとしているのかがぼやけ、世界観が弱くなってしまったのが本当に、本当に惜しいです。
その部分の減点さえなければ『隷吏たちのるつぼ』と一位を競った可能性も充分にある作品なので、次はキャラの掘り下げを意識して新しいお話を書いていただきたいと思います。

女王のレッスン

「緊縛」というなかなか斬新なものがテーマで、個人的に今回のノミネート作品の中で『チャレンジ賞』的なものを差し上げたいくらいです。文章も達者で、とても読みやすい作品でした。
登場人物もみんな魅力的な善人で、こういった知人や仲間に囲まれたら楽しいだろうなと思いながら読み進めました。
ただ、作品としてはその「魅力的な善人ばかり」が裏目に出てしまった感があります。
物語には起承転結が必要ですが、ライバル、悪役といった引っかき回し役が足りず、平坦な印象になってしまったのが惜しいです。
次は是非、物語の緩急を意識してみて下さい。

桃色フラストレーション

ありそうでないような、エッチ大好き同士の恋愛模様で、個人的には大好きなノリでした。
文章も書き慣れた感があり、表現にも独特の個性が光っていました。
カテゴリとしてはTLになると思いますが、重くなり過ぎず、まさにハッピーエンドというオチで読後感が良いのは大きな魅力だと思います。
ただ「恋愛」として見た時「身体から始まる関係」は全くもって問題ないと思うのですが、その後もずっとエッチシーンがメインなので二人の感情的な結びつきが今一つ足らない気がします。
エッチも大好きだけれど、お互いの中身も好きなんだよ、というものが明確に伝わるエピソードがあっても良かったのではと思います。

愛しい記憶

個人的に今回のノミネート作品で一番好きです。私が姉弟の近親相姦のバッドエンドが好きなのもあるのですが、何より脳内に浮かぶイメージが映画的で美しかったのが最大の理由です。
狭くて暗い部屋、白い身体、荒れ狂う水、連なった言葉から二人の表情まで浮かび上がりました。
古代エジプトはかなり唐突ですが、その唐突さが逆に妙なリアリティとなり、エピソードとして生きていたと思います。
ただ作品として評価するのであれば、二人の「終わり」に強くフォーカスし過ぎてそこに至るまでの関係性の描写が足りていないので、点数としては辛くつけざるを得ません。
オリジナルの表現センスを持っている方だと思うので、今度はもう少し長めの作品を書いてみて欲しいです。

17歳の寄り道

昨年ノミネート作品の『おにいちゃん、おしえて』が個人的に大好きでしたので、今年も期待に胸を膨らませながら読み始めました。メインヒロイン(?)である碧が「不審人物」というアクシデントにより嫌な奴だと思っていた浅野と急接近し、家まで行ってしまう……という流れはドラマチックで可愛く、村上先生もいい味を出していて、夢中になって読みました。
ただ本当に残念なことに、後半、登場人物を増やし過ぎてしまい物語が失速した印象が否めません。
「17歳」という大人でもない、かといって子供とも言い切れない、不安定な年齢はテーマとして非常に魅力的ですよね。
友達や、それに関わる人間関係とエピソードがどんどん増えて物語の世界が広がってゆく───それは非常に幸せで楽しいことですが、キャラが増えればその人数分だけ納得のゆく終わりを考えなければなりません。またこのコンテストのテーマは「官能」ですから、そこにも人数分のバリエーションが求められます。
Clariceさんには是非、この半分~1/3くらいのボリュームでまとめ上げることに挑戦してみて欲しいです。

素直になれなくて

今回のノミネート作品の中では良い意味で一番日常的で、女性読者さんから共感を得そうな設定だと感じました。
ヒロインを始め、登場するキャラの立ち位置も明確で安心して読むことが出来ました。
ただ前半の丁寧な書き込みに対し後半が駆け足気味で、通して読んだ時に後ろの方がボリューム不足のように思います。 特に、個人的には浅井とのエピソードが足りていないと感じ、もったいない気がしています。
もう少し全体的にエピソードを絞り、三人の関係を掘り下げてみても良かったのかなと。
また、お話のムード的にどうしても「甘く幸せなエッチ」が多くなるので、シチュエーションをもう少し捻ると官能度も上がったと思います。

キズナツナグモノガタリ~誠の男と性の少女~

「快感」を描くならヒロイン目線の方が良かったのでは……という声が審査でも散見され、個人的に私も同じ意見です。
主役の二人は真っ直ぐで感情移入しやすく、エッチなラノベとしてとても面白い設定だとは思うのですが、「官能」がお題ですからここはやはり「ヒロインがどれだけ快感を得ているのか」をもっと全面に押し出して欲しかったです。
また、それを描くためにも戦闘シーンだけでなくもう少しハプニング的な可愛いエピソードなどがあると、ヒロインの花楓の可愛らしさ、いじらしさのようなものが伝わったかなと思います。

イケないキミに白い林檎を

ヒロインである風子が記憶喪失という、少しミステリアスな導入はとても良かったと思います。颯太とソラ先輩、三人の関係性も人気が出そうな設定で、最後は一体どうなるのか、あれこれ想像しながら読み進めました。
小物の使い方もよく、話の筋としてまとまってはいるのですが、惜しいことにキャラ設定が少し粗い印象を受けました。特に風子は記憶喪失という点を差し引いても言動に小さな矛盾を幾つか感じ、途中で何度か物語への没入を阻まれてしまいました。
キャラ作りは物語において非常に重要な部分です。最初からガチガチに固めなくても良いのですが、芯ともいえるものだけは頭の隅に常においておき、「以前に言ったことと食い違ってないか」「このキャラ設定でこの台詞はありかなしか」ということを自問しながら書くことをおすすめします。

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