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「おいで、僕の可愛いグレーテル」

「もう、何時までも グレーテルって呼ばなっい……あっや、だ……兄さん……！」


　昔々、町外れの大きな森のすぐ側に一組の木こりの家族が暮らしていました。貧しさに耐え兼ねた後妻に唆され、一家の主は幼い兄妹を二度に亘って森の中に置き去りにしました。辛抱強い兄と機転の利く妹と。魔女を退治した二人は無事、お菓子の家から生還を果たしました。
　兄の名はハンス、妹の名はグレーテ。ヘンゼルとグレーテルと言えば皆さんご存知の、えぇ、あの兄妹です。
　継母はすでに亡く、親子三人で仲良く暮らす楽しい生活。でもそれは、あまり長続きしませんでした。ハンスがようやく木こりとして認められ始めた頃、国中を席巻した流行り病で父が亡くなってしまったのです。
　看病をしていたグレーテも病に見舞われ、死線をさ迷う危険な状態に……医師さえも匙を投げる中、ハンスは寸暇を惜しんで懸命にグレーテの看病に当たり、彼女は命を取り留める事が出来たのでした。
　二人きりになってしまったハンスとグレーテ。でも、兄と妹の二人の物語はもっと前から始まっていたのです。


※他サイトにて別名義で掲載していた作品です。