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雨の日は、君と。
第1章 プロローグ
 

時計の短針は9時を回った頃。

朝の天気予報では『夕方からに掛けて雨が降る』と言っていたけれど、どうやら今日は当たりだったらしい。

傘の隙間から真上を仰ぎ見れば、どんよりとした雲が広がり月さえ見えない。

すん…と鼻から空気を吸い込むと、湿った雨の濃厚な匂い。

大抵の人はこの雲行きに落胆して、足取りも重くなるのだろう。


けれど、私は違う。


自然と足取りは速くなり、胸はドキドキとほんのり高まっている。


「……今日もいるかな、猫ちゃん。それから――」


――――あの子。

ダンボールに入った黒の仔猫に、ふと過る彼の顔。

そして――


「おねーさん、また会ったね」


耳に心地いい声変わりしたばかり特有の掠れた低い声。


いつからだろう?


彼と再会した時に発せられるお決まりのセリフ。

染めているのか、地毛なのか。

少し癖のある蜂蜜色の髪を揺らして彼は笑う。


まだ少年のようなあどけなさが残るその笑顔を見ただけで。

私はホッと安らぐの。

 
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