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冷たい月を抱く蝶
第4章 悲しみの記憶と……
私は父と一緒に馬車から降りると、お店を見上げた。
お店は高級感に溢れていた。どうみても、普通の市民がお店の中に立ち寄れない雰囲気があった。
私は一瞬、扉の前で緊張した。
こんなお店の中に入るなんて、小さい私でも勇気がいることだった。
でも、お義父様は自然にお店の中へと入って行った。
入り口の前でもたついていると、彼が中から声をかけてきた。
「どうした瞳子?」
「早く中に入りなさい」
「え、ええ…」
「でも、私みたいな子がこんなお店の中に入ってもいいのかしら…?」
「何を言っている。お前は私の娘なんだ。ハプスブルクの娘が、そんなんでどうする?」
「で、でも……」
「もっと胸をはって、堂々としなさい!」
「わ、わかったわ…!」
私はお義父に叱られると、勇気を出してお店の中に一歩入った。
きっとあの頃は、こんなお店に入れるなんて夢にも思わなかった。
でも、今は違う。
私は彼(お義父様)に恥じない娘として、堂々と生きようと思った。
踏み出し一歩から、私の世界は広がっていく――。