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第5章 懐かしさの理由

口を真一文字に結んだ。
反論の言葉は見つけられなかった。
心の中では負けを認めて参りましたと頭を下げている自分の姿を依子は見ていた。

そうだ、自分はこの男にもう一度会ってみたいと思ったからここへ来た。
雨の日に出歩くのは好きじゃないのに、雨降りの中ここへ来た・・


「もう、お好きに解釈してください」

余裕な態度を見せながらも、依子の心臓は破裂寸前まで波打った。
この男には勝てそうもない、と無駄な抵抗を止めた。

「じゃあ、また会いましょうよ。場所はどこでもいい。
　そのためにも連絡先を交換しましょう、ね？」

依子は素直に頷いた。
互いの電話番号、メールアドレスを交換し、自分のアドレス帳に登録する。
その画面をじっと見る依子の口元は少し口角が上がっていた。