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【マスクド彼女・序】
第4章 二日目・三日目【微弱な引力の作用】

 二人が無作為に掴み取っていた駒には、裏面に文字の記されていない『王』と『金』が、それぞれ一つづつ含まれていた。ゲームの結果を単に裏と表の数で判別するのなら、それは同数。

 正直がその一点を以って、この勝負に異議を唱えていた。


「えっと……だから、引き分けってことで、どうかな?」


「……」


 恐る恐ると訪ねた正直の視線を、唯はプイと顔を背け交わしている。何処か気まずい空気が、二人の間を漂っていた。

 正直は唯の機嫌を気にかけながらも、そっと頭を掻く。だが、少なくとも先程まであったぴりりとした怒りは、治まっているように思う。

 すると、暫く押し黙っていた唯が、不意に訊ねた。


「正直さんは……どういうつもりで?」


 その実に頼りない問いかけに、少し思慮した後、正直はこう答える。


「戒律だっけ? その一つに、こんなのがあったと思うんだけど」


「――?」


 不思議そうに見つめる唯に――


「俺は君を、常に思いやらなければならない――と」


「――!」


「一応は、それに殉じたつもりだけどね」


 正直はそう告げて、照れ臭そうに笑った。

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