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蕩けるようなキスをして
第63章 本と付箋
「今日の講義、ちょっと分かり辛かったかな?」
驚いて顔を上げれば、果たして高階先生がすぐ側までやって来ていた。
あまりにびっくりして、声を出せずにいると、先生はもう一度訊いてきた。
「なんか難しいような、そんな顔をしていたから…勘違いだったら、ごめんね」
遠慮がちに微笑まれ、危うく本当の気持ちを言いそうになる。
憂いた顔をしていたのは、あなたのせい-そう、白状してしまいそうになる。
吐露できない苦しさに苛まれていると、先生は教卓へ向かった。
やがて、戻って来た高階先生が手にしていたのは、一冊の本だった。
黙って見守っていると、机の上に先生がそれを差し出した。
私は、本と先生を交互に見る。
「良かったら、読んでみて。初学者用の、もの凄く丁寧に書かれた、分かりやすい本だから」
言って、高階先生は再び教卓へ戻り、自分の荷物を抱えてきた。
「本当は補足しながら教えてあげたいけど…きっとまた、喋る事に夢中になってしまうだろうから」
この間の事を言ってる-私はすぐに気付いた。
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