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蕩けるようなキスをして
第63章 本と付箋
そんな私の視線を受け、先生は微かな笑みを口元に張り付けて、講義室を後にした。
残された私は、先生が置いていった本を手にしてみる。
かなり読み込んだのだろう-表紙は程良くくたびれており、所々色とりどりの付箋が貼られているようだった。
もう十分頭の良い先生だって、未だにこんなに勉強してる-そう思うと、今日の講義を上の空だった自分が恥ずかしくなった。
理解出来ていなかった-先生を勘違いさせてしまったけれど、折角貸してもらった参考書。
長い夏休みの間、ずっと、借りていていいのだろうか。
それなら、これを使って一生懸命勉強しよう-ページを捲ろうとしたその時。
思わず、私は吹き出しそうになった。
『もの凄く丁寧に書かれた、分かりやすい本』-表紙の印字を、そっと、指でなぞる。
愛おしさが、指先から溢れ出そうだった。
『著・高階 透』
自分が書いた本を、絶賛するなんて。
ユーモア溢れる先生らしかった。
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