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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
 


「はははは。だったら化学反応ごともらい受けようか」

 それでも専務は引かない。

 まるでシークレットムーンに執着があるように。

「それとも、化学変化を積極的に起こすお前を操れる、鹿沼陽菜を貰おうか」

 専務の鋭い目があたしを射貫こうとする。

「気の強い女を組み敷くのは、俺の趣味だ。それにお前は、俺の好みの顔と身体をしているしな」

 好色そうな眼差しがあたしに向いて、肉食獣に魅入られた気持ちになり、ぞわぞわとした、本能的危機感の悪寒を背中に感じた。

 この男、なにかやばい気がする。

 朱羽があたしを隠すように間に入った。

「申し訳ありませんが、彼女に手出しはさせません」

 静かなる強い語気で、きっぱりと朱羽が言う。

「彼女に手を出そうというのなら、相応の報復を覚悟して下さい」

「ほう?」

「俺は全力で、なりふり構わず向島をつぶしに行きます」

「なんだ、軽く思われているな、俺は」

「この状況なのは、宮坂専務があなたに手出ししようとしていないからだ。いまだ彼は、あなたを友だと思っている。あなたが宮坂専務を堕としに、忍月の副社長に近づいていても」

 副社長一派は、宮坂専務が対立しているところだ。

「彼はいまだあなたを信じている。向島が動いたのは、あなたが本家にけしかけたからだとわかっているのに、それでもあなたは止めてくれると。だから彼は、全力で向島を潰しにいけない。シークレットムーンの窮状をしってもなお、あなたと敵対するのを恐れている」

 向島専務は目を細めた。

「だけど俺にとってあなたは友ではない。どんな方法でも取れる。犯罪すれすれのところで、あなたを社会的抹殺することも。向島のネットワークに忍び込まないのは、ひとえに宮坂専務のため。その気になれば、どんなセキュリティーも突破して、すべてのデータを改竄出来るということも覚えておいて下さい。あなたのところの技術者と俺では、どちらが上かRobert Martingが断言してくれるでしょう」

 レンズ越し、朱羽の切れ長の目が温度を失い、冷酷な光を宿した。
 
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