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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
 
 ~Eri Side~

 給湯室から水を汲んだポットを持って病室に戻ろうとした私は、聞き慣れたひとの声に驚いてそちらを見た。

 結城と……戻ってきたらしい、陽菜と香月。

 うわー、なになにエレベーターで鉢合わせか。

 私は物陰に隠れながら、昨夜からの結城を思い出す。

 泣いていたあいつを励ますための飲み会。結城は酒を浴びるほど飲むほどに泣き上戸だったらしいことが判明、気づいた時にはしくしくめそめそと。

 今まで結城がここまで酔ったことはないし、いつも陽気に笑っていたから笑い上戸かと思っていたが、実は違うということをきっと私が初めて見たようなものだ。陽菜ですら、知らないはず。

 私が一緒に飲みたくないワースト2位が泣き上戸だ。そして1位が絡み上戸で、酒を楽しみに来たのにまずくなるこのワーストランク、1位と2位を混ぜ合わせたのが、結城の泥酔状態だった。

 ひと言で言えば、面倒臭い。

 まだひとりで涙ぽろぽろなら許せるものを、陽菜に未練たらたらのこの男は、陽菜のことで突然に泣きながら、あたしに陽菜をどんなに好きか惚気てくる。

 それでそのうち、友達の方が陽菜の傍にいれるだの、香月の知らない陽菜を知っているだの自慢始める。

 と思ったら、さらには「自分は香月だから譲ったんだ」とか、「香月の能力を先に見抜いたのは自分だ」とか、ライバルを大絶賛し出して「陽菜の目は節穴ではない、さすがは俺の惚れた女」だとか言い出したと思いきや、「今頃陽菜は香月に抱かれているだろう」とか、「あのふたりは両想いだから付き合ったのだろうな」とか、ぶちぶちと愚痴ては落ち込む。

 これを二時間ほどされて、いい加減私は思った。

 1.香月より結城の方がいい男だと、陽菜の趣味が悪いんだと、根気強く結城が浮上するまで激励する。

 2.無視する。

 3.説教する。

 4.帰る。
 
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