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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon

 
 向島の開発プログラムは、朱羽と杏奈が騙した音声入力ソフトであり、まるでうちが開発したものと違うが、それをうちと争うかのように盛大に金をかけた宣伝してきた。

 朱羽は、すでに匿名でのWEBを作っており、音声入力ソフトの弱点を細かく追求する特集を組んで、向島のウリを否定にかかった。

 そして全国区の大手掲示板に『音声入力ソフトをどう思う?』という質問を書き込んだ朱羽に対して、多くの意見が寄せられる。

 こういう掲示板の利用者は、エンジニアも多いと聞く。彼らは勝手に向島が大々的に宣伝しているものを比較検証して、扱き下ろした。

 向島が広告を取り下げたにもかかわらず、その記事は増殖するように増えていき、さらにはTwitterやFacebookなどSNSにも拡散され、夕方五時頃には、朝一番で発売されたばかりの向島のソフトがいかに粗悪品かと巷に知れ渡った。

 向島は金をかけすぎた分を、これでは回収できないだろう。

「なにがダメかってね、三上さんが過去に開発したプログラムと向島が今開発した音声入力プログラムは相性悪い」

 朱羽は笑う。

「しっかりとした技術者なら、俺と三上さんの会話を鵜呑みにせず、危険性に気づいたはずだったのにね。せっかく向島が三上さんが作ったシステム系のプログラムで大きくなったのに、自社開発して音声入力プログラムを起動した時点で、命令が無限ループしてパソコンが固まって動かなくなる」

 あたしはふと思い出した。

「そうさ、向島がうちに仕掛けたワームを真似て、向島のエンジニアの手で作らせた。今頃苦情が殺到してると思うよ? 特に向島のソフトユーザーが。これで少しは信用が落ちるだろう」

 朱羽と杏奈が"作らせた"プログラムだと知らずに、向島はふたりを超えられたとご満悦だったのだろうか。

「さて、これは前哨戦だ。これで向島専務が黙っちゃいない。元々はこれは、うちへの意地悪なだけで本命ではないだろうから」

「本命……」

「プログラムでくるのなら、俺と三上さんとでなんとか出来るけれど、外交的にくるのなら、結城さんに踏ん張って貰わないとダメだ」

 あのサディストはどうやって出てくるのだろうか。

 杏奈を取り戻したいのか、それとも杏奈を引き離したシークレットムーンを壊したいのか。

 どちらにしろ、これで諦めはしないだろう。 

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