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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon

 
「あ、朱羽。どうした?」

 こんなに卑屈になって、向島に行こうとしていることに気づかれたくなくて、出来るだけ笑顔を作った。

「なんでいなくなった!!」

「ごめん。夕飯買おうと思って。こっちは大丈夫だよ、あたしひとりで買えるから、上に戻って」

「俺も一緒に買う」

「それくらいあたし、出来るし」

「……嘘くさい笑い顔」

「え?」

 朱羽は、お弁当をレジカゴに入れ始めた。

 横顔が冷ややかだった。

「あなたは、"いらない人間"じゃないから」

 眼鏡が照明に光る。

「シークレットムーンに必要な人間ばかり残った。どうしてあなたもその一員だって、信じ抜かないかな」

 朱羽はあたしの手首を掴みながら、飲み物もカゴに入れていく。

「なんのために、あなたはここまで頑張ってきたんだよ」

 怒ったようにして、乱暴にカゴの中に放られる。

「なんのために……俺は、シークレットムーンに来たんだよ」

「朱羽……」

「いいか、向島専務の目的は三上さんなんだ。三上さんかあなたかが向島専務の元に行くとしたら、よくて彼の愛人だ。シークレットムーンに残された俺が、嬉しいと思うか!?」

「……っ」

「いなくなったらいいのは俺なんだよ、陽菜。だけど俺は、月代社長にも渉さんにも言われた、"化学変化"を起こさないといけないんだ。それが俺に課せられた、最大の仕事だから。俺は、結城さんやあなたが出来ないことをしないといけない」

 朱羽がレジにカゴを出す。お金を支払おうとしたら、朱羽が自分の財布から支払ってしまった。

 さらにふたつになったレジ袋を朱羽が奪うようにして、両手に持った。

「あなたがいなくなるシークレットムーンなら、俺が来た意味がない」

 朱羽が誰もいない暗い廊下で呟く。

「渉さんをここまで追い詰めてしまった意味がないじゃないか」

「朱羽……?」
 
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