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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon

「確かに、あいつが出向いてくる必要はないわな」

 宮坂専務は、眉間を指で揉み込みながら言う。

「意味がなければ、あいつは自分で動かないだろう。シークレットムーンを潰す気だから、要の三人のどれか欠けても連携崩れるだろうし、三人が行かないとしても、訴訟に勝つには金がかかる。向島は財閥があるから長引いても金は出せるが、シークレットムーンに忍月は金をかけないと思っているから、資金を削っていこうとしているんだ。株主総会でそれを指摘されたら、痛いな」

 ……言えばいいのに、あたしに行けと。

 あたしはきっと、ただの朱羽のダシだ。表参道で向島専務がそんなことを言っていたのが、頭に蘇る。朱羽を操れるとか、言っていたっけ。あたしが朱羽を行かすわけないじゃない。

 杏奈も朱羽も実利を生む働きをしているのに、あたしは誰にでも出来る仕事をして技術力も営業力もない。そんな人間が必要とされてるなんて思い込んで、会社を危機にしていいの?

 昔、損害賠償沙汰にしてしまった時、本当に怖かった。結城と衣里が土下座して謝ってくれて、回避出来たのだ。

 あたしが皆の役に立ってあげられることって、向島に行くことくらいじゃない?

 シークレットムーン好きだけれど。社長となった結城を、朱羽と衣里とそして他の社員達とで支えて、月代社長と宮坂専務を安心させてあげたかったけれど。

 愛社精神だけでは、厳しい現実を打開するにはどうにもならない……すべては実力と能力次第だと、それを向島専務に言われた気がした。

 あたしが出来る最大のこと――。


 そんなあたしを朱羽はじっと見ていたのを知らずに。



 話し合いは、訴訟されるという前提で進んでいった。

 途中で木島くんと衣里も帰ってきて、話は怒気を帯びる。

 なんと木島くんのお父さんは有名な弁護士らしく、さらに衣里の知り合いが向島一族を牛耳る裁判所にいるらしく、どんな状況か聞きにでかけた。

 あたしだけなんだ、話を聞くだけでなにも出来ないのは。

 出来ることは買い出しと、社長の看病くらい。


 あたしは、静かに病室から出てコンビニで夕食を調達に行った。

 白熱していたから、きっとあたしが抜けたことに誰も気づかないだろう。


「……陽菜っ」

 ため息をついてコンビニに入ったあたしの腕を引いたのは、朱羽だった。
 
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