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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
 


 午後八時二十分――。

 あたしのスマホに朱羽からLINEスタンプが来た。

 付き合ってから、朱羽とは病室に居ても仮眠する時に、必ずネコのスタンプを送ってくる。

「おやすみ」「おはよう」「今日も頑張ろうね」などなど。

 今朱羽から送られたスタンプは、ネコがもじもじして「行ってもいい?」だ。

 朱羽はこのネコシリーズのスタンプが好きらしい。確かに可愛いネコのイラストだけれど、あのすました顔の朱羽がこんな可愛いスタンプを選んで、こっそりあたしに送ってくれていると考えただけで、悶え死んでしまいそうだ。

 今度ギャグ系ではなく、きちんと可愛いスタンプを探して買おうか。

 そう思いながら、あたしはウサギが土下座して「お願いします」と言っているのを選んで返すと、既読マークがすぐ現われ、ネコが喜んで「了解!」と言っているスタンプを寄越した。

 それから十分もしないで、ドアがノックされる。

 途中でLINEを寄越したのか、フェラーリですっ飛んで来たのか。

 家に居るあたしがドアを開けて、外から朱羽を中に招き入れるというのは初めてだ。

「陽菜、行ける?」

 立ち襟のオフホワイトの短丈ジャケットから覗くのは、ワイン色と黒色が混ざったリブ編み模様の、Vネックで長丈のカットソーに、細身の黒いズボン。

 スーツ姿の方が見慣れているせいか、彼の私服姿は目のやり場に困るんだ。すらりとした長身をさらにすらりと見せる白黒に、ワイン色がやけに扇情的で、露わになっている首筋から立ち上る色香に鼻血が吹き出しそう。

 思わず両手で、むずむずする鼻を抑えた。

「鼻かむ?」

「いやいや、違うの。お鼻がむずむずしただけ」

 そう返事をしたら、朱羽が俯き加減にぽつりと言った。

「着てきてくれるんだ?」

 それはあたしの格好か。

 色々一張羅を出してみたけれど、どれもが体温のない白黒ばかりだし、どうせなら朱羽が買ってくれた服装にしようと、あのくすんだサーモンピンクのワンピースに、尻まで隠れる長い黒のカーディガンを羽織ったんだけど。

 そうか、見慣れてしまったから面白くないか。

「じゃあ今着替えて……「なんで着替えるんだよ。玄関にあの靴もあるから、俺……凄く嬉しくて」」

  
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