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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
 
 口元を指で隠すようにしながら、斜めにあたしを見てくる。目が合うとすっとそらされる。

「あなたがそれを選んでくれたのが、俺のもの……っていう実感が……ああ、ごめん。ちょっと見ないで」


 ……なんなのこの可愛い生き物。

 なんで真っ赤な顔でうるうるとした目でそんなことを言うの。

 さっきまで怖い怖い向島専務相手に啖呵切って、はったりかましていたじゃないの。なんなのこのギャップ。鼻だけじゃなくて、あたしの全身がむずむずするんだけれど。

 思い切り抱きついて、むぎゅっとしたいんだけれど。

 それが出来ないなら、せめて手くらい繋ぎたいんだけれど。

「……ああ、なにか熱いね。早く行こう。荷物はこれだけ?」

 玄関に置いてあるトートバックを肩にかけた彼に、あたしは言った。

「……うん。……それと、"あたし"……」

 勇気を出して自分から朱羽の手を繋ぐと、緊張に身体が強張った。手を自分から繋ぐのが慣れていないことが、丸わかりだ。

「………」

「………」

 無言で真っ赤になって俯いているあたしを、そんなにじっと見ないで欲しい。いつものように自然に手を繋いで行こうよ、あ、その前に家の鍵を閉めたいのよ。

 ……ああ、タイミングを外した。

 手汗が出てしまって慌てて手を離そうとしたら、朱羽はぐっとあたしの手を引くと指を絡めてぎゅっと握り、やるせなさそうなため息をついた。

「どうしてあなたはこう、不意打ちで可愛いことを言ってくるのかな」

 朱羽はそのままであたしを抱きしめた。

「このお荷物は、ずっと大切に扱わせて頂きマス」

 そして頭上にすりすりと頬を擦ると、キスを落とした。

 木島くんのようにあたしの全身が熱と発汗でしゅうしゅうしちゃう!

「か、鍵かける!!」

 たまには素直になってみたら、返り討ちに合う。

 ああ、このままベッドへ走って布団を被って丸まりたい気分。

 ……それでも朱羽と繋いだ手を離すことは出来なくて、あたしは家を後にした。

 
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