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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
 
 朱羽は笑って立ち上がり服を着ると、運転席に戻った。

 凄まじい色香を放っていた肉体は服が隠したが、朱羽の濃厚な匂いが元に戻っていない。

 うっかりこれを嗅ぎすぎると、所構わず発情してしまう危険性の高い彼の香りは、窓を開けて換気しても、車内に染みついたまま。

「じゃあ、帰ろうか」

 運転席から顔を傾けキスをしてくる朱羽によって、またもやそれは一層濃厚になり、あたしは実に悶々としながら、密やかにパンストを脱いだままの生足を摺り合わせる。

 彼のフェロモンはあたしを蕩けさせる――。

 彼に欲情しながら、また彼と愛し合いたいと強く願って、雑談と流れる夜景に気を紛らわせて帰途についた。

 
 ***


 午前0時20分――。

 車内で、色気とは無縁のあたしの腹の音で、夕飯を食べずにいたことに気づいたあたし達。

「うーん、食べておかないと、朝まで身体が持たないね。お菓子よりご飯食べないと」

 朱羽はいつもの柔らかな笑みで、何気なくそう言ったが、家についてそのまま朝まで寝ていようという選択肢はないようだ。

「深夜まで営業のファミレスか、スーパーかなにかでお弁当とか調達するか。でも毎日そんなのばっかりだよな。おにぎりとかにする?」

「おにぎりなら、わざわざ買わなくてもそれくらいならあたし作れるよ? おにぎりと味噌汁くらいは」

「本当!?」

 朱羽がふわりと綻んだように笑う。

「だったら材料調達して帰ろうか」

 凄く期待されている気がして、慌てて言った。

「……普通のおにぎりしか作れないよ? 絶品なんて作れないから」

「どんなおにぎりでもいいよ。形がおかしくても結びきっていないのでも。……あなたが俺の家の台所で料理してくれるの、こんなにすぐ見れるなんて嬉しくて。……明日の朝食も、お願いしていい?」

「……っ」

 鼻血が出そう。

 なにこの、可愛くおねだりする生物。

 お姉さん、どんな不可能なお願いでも聞いて上げたくなっちゃうんですけれど。
 
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