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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
 

 名取川文乃はなにかを考え込む素振りを見せた。

 そして数分じっくりとかけてから言う。

「……鹿沼さん。あなたの寿司はそのままあなたがお食べなさい。そして、あなたも含めて全員に、残りの魚で寿司を振る舞うわ。……元から、感謝の印の夕食なのに、食べられないひとがいるのはおかしいし」

「は、はあ……」

 名取川文乃の本音と建て前がよくわからない。

 ただわかることは――、

「だけど、まだ完全にあなた達の言葉を信用したわけではない」

 彼女を動かしているのは、彼女にとって異質なあたし達の興味だけであって、信用を勝ち取ったのとはまた違うということ。

「言葉ではどうとでも言えますからね。ですから、食べ終えたら……茶室に来なさい」

 心を揺るがすには至っていないということ。

「茶室?」

「そう。そこで私が茶を淹れます」

 食後だからと、湯飲み茶碗に急須でお茶が振る舞われるわけではないのだろう。

 茶道の大家であるのなら、茶とは……お抹茶を茶筅で点てたもの。彼女が得意とする分野の領域で、あたし達に茶を振る舞うことに、どんな意味があるのだろうか。
 

「日本人であるのなら、作法くらいおわかりですね?」


 ……あたしは、浴衣の着付けくらいは出来ても、華道や茶道など体験したことがない。ドラマや時代劇であるように、畳に正座して、本格的な濃茶を口にしたことがないのだ。

 茶道の作法を始めとして、詫び寂びに心を馳せ茶を嗜(たしな)む心をわからないとは言わせない、というような眼光の強さに、思わずあたし達は萎縮してしまった。

 その中で、衣里と朱羽だけが平然としていたのに、あたしは気づかなかった。

 
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