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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
 
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 大広間には、あたし達だけしかいない。

 なんとかゲット出来た、全員分の寿司。

 結城を含めて答えられなかった社員が皆、話を切り出したあたしに礼を言ったけれど、次に茶室でなにをされるのかとびくびくする……あたしを含めた社員達には、正直味がわからなかった。

 空気がどんよりして、結城の空笑いと木島くんの声が響く中、涼しい顔の朱羽と衣里が話し合っている、その内容に気づかないほどに……あたしは不完全燃焼にもやもやしていた。

 "働かざる者食うべからず"

 そう表現した名取川文乃は、愛猫まで簡単に捨てようとした。

 そんな傲慢さを見せながらあたし達に頭を下げて、彼女が見放したはずの猫を救ってくれてありがとうと、謙(へりくだ)って礼も言う。

 さらに、夕食は終わりだと宣言しながらも、彼女は全員分の寿司を始めから出すつもりだったような……そんな気すらしているのは、ガラスケースとご飯を空にさせた板前さん達のひとりが、彼女に頭を下げて言っていたのを耳にしたからだ。

――終了しました。ご注文ありがとうございました。

 板前さん達はここ常駐ではなく、外部から職人を雇ったんだろう。

 ならば料金が発生するだろうからそう言ったと考えられなくもないが、最初から五人も板前さん達が呼ばれていたこと、人数分の魚介類とご飯が用意されていたこと、そして全員に新たに配られた……寿司が乗った笹の葉型のガラスの皿も、きっちり二十人分。

 ……あたしは名取川文乃が最初から、二十人前の寿司を用意していたのではないかと思えてしまったのだ。

 ヴァイスも彼女に捨てられるという危機感を感じていなかった。少なくとも彼女が車に乗ってヴァイスを置いてしまった時点で、なにかネコの本能からのアクションがあってもよかったのではないか。

 つまり――。

 ネコすら知り得るほど、ネコを愛する彼女は、ネコを最初から捨てる人間ではなかった。

 そして、あたし達を淘汰するような試験を与えながらも、寿司も最初から全員分用意していた。

 ……では、あたし達に傲慢に振る舞った意味は?

 彼女にはなにか意図があって、あたし達を試すようなことをしているのではないだろうか。

 猫探しから寿司、そして茶室に舞台を移行しようとする、彼女の意志と思惑は、一体なに?
 
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