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第6章 急かされて旅立つ

　その瞬間――真がビクリと、肩を竦めたのが見えた。

　声はその後方――間に幾つかの席を隔てた処に位置する、カップルの女性の方が発していたものだ。その若いカップルは顔を寄せ合うようにして、手にしたスマホの画面を覗き込んでいた。

　それを認めて、俺は小声で言う。


「真、大丈夫だよ。お前のことを見て、言ってる訳じゃなさそうだ」


「ふう……そっか」


　緊張で張り詰めた胸から、ゆっくりと空気を吐き出し、真は言った。

　だが慎重に耳を欹てている俺たちは、その後のカップルの会話を聞き及ぶと、再び不安な顔を見合わせることになるのである。


「コレって、ホントにＫ町のアウトレット？」

「投稿者がそう書いてるし、間違いないだろ。ホラ、この店の並びを見ろよ」

「じゃあ、あの情報もガセじゃなかったんだ。Ｓ市で目撃されたとかいって、つい最近もワイドショーのレポーターとか来てたし」

「そうだな。もしかしたら、すぐ近くに隠れてたりするんじゃね」

「この画像の横顔――確かに本人っぽいよねー」

「そうするとさ、今度は一緒にいる男の方も気になるよな」

「うん。そうだね。天野ふらのって、その手の噂も色々あるし」

「ああ、今回の失踪だって、実は駆け落ちなんじゃないかって言われてるもんな」

「あ、でも――男の人の方は、顔がよくわかんないね。なんとなく、普通の人っぽいのかな」

「とにかく、きっとこの辺りもまた騒々しくなるぞ。なんでもファンの有志で結成されてる、捜索隊まであるらしいからな。ハハハ――」



　その会話を最後まで聞くことなく。俺は真を背中に隠すようにして、その店を後にしている。