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第11章 縋り付き、頼む

『兄さん、随分と簡単に言ってくれるけどさ。我が家にとってこれは、結構な大事件なんだよ』


　拓実の声は苦心したことを示すように、ため息を交えつつ聴こえていた。若い時分は調子の良いだけの男だと思っていたが、少しは苦労でも覚えたものか……。


「なんだよ、大袈裟だな。俺は話がある、と――そう言ってるだけだぜ。僅かな時間を取ってくれれば、それでいいんだ」


『明日は休日だしね、スケジュールの方は問題じゃない。だから、そうではなく。他の誰でもない――訪ねて来るのが、裕司兄さんだということ自体が、大変な問題なんだよ。少しは自分の立場を、自覚してくれると有難いけども』


「二十年近く前に家を飛び出している、ダメダメな次男。そんな立場を、一体どう自覚しろというんだよ？」


『その二十年という時間が、これ以上もなく非常にセンシティブなんだよ。親父も年を取った。裕司兄さんの知らない内にね』


「病気でも、したのか？」


『イヤ、ピンピンしてる。コッチの方が、呆れるくらいさ』


「だったら、いいじゃねえか。それとも、俺と顔を合わせるのをゴネたのか？」


『さあ、それはわからない。兄さんの話をしたら、一言――「あの、バカが」と、そう吐き捨てただけだしね。ただ、後で時間を聞いてきたから、話を聞くつもりはあるんじゃない？』


　あの親父らしい、と俺は思わず苦笑を漏らした。