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第11章 縋り付き、頼む

「じゃあ、明日。俺が話をする分には、問題なさそうだな」


『だから――それが、そう単純じゃないの！』


　拓実がその声に、苛立ちを滲ませている。


「他に、なんか――事を複雑にするような、事象でもあるのかよ？」


『あ、酷いな……。もしかして、本気で忘れてない？　わが家の長男のこと――』


「なんだ……揮市のことかよ」


　高崎揮市（たかさき　きいち）は、俺の兄貴。高崎家の長男であり、親父の後を受ける形で、現在は高崎グループの（名目上の）トップに立っている筈だ。


「流石に、忘れねーよ。つーか、なんでアイツの話が出るんだよ。俺は親父に、話があるって――」


『だから、それって――どんな話？』


「それは、親父に会って直接――。いや、セッティングしてくれたお前には、申し訳ないけども。そんなに関心を持たれても、困るんだよ」


『関心？　そうだね。少なくとも揮市兄さんは、とても大きな関心を覚えているよ。いいや、懸念といった方が正しいかな』


「懸念……？」


『そうさ。裕司兄さんが、もし家に戻る気があるとして――』


　拓実はそこで言葉を切り、人の腹を探るようにして、こう話している。


『ホラ、そうなれば。まだ先のこととはいっても。例えば――遺産相続の件、だったり』