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第11章 縋り付き、頼む

「は？　なに言ってんだ、お前？」


　遺産って……。想像もしてない話を向けられ、期せずして俺は顔を歪めた。次いで本気でそんな心配をされるのかと呆れ、ため息が口をつく。


「ふぅ……どうして、そんな風に思うのかねぇ。さっきお前が言ったセンシティブとは、そんな意味なのかよ。一体、何処の財閥の話なんだか」


『地方企業とはいえ、現在の関係グループ規模ではその影響力だって大きい。きっと、外部から眺めるよりは遥かにね。仮にもそのトップに立つ家系のこと――そのくらい、寧ろ当然だと思うけど』


「それは、余計な心配だと思うぜ。俺はそんな価値観を捨てて、一応は今日まで生きてきているんだから」


『ふーん……しかし、そうは言ってもなあ』


「なんだよ！」


『――と、まあ、いいか。ところで、裕司兄さん。今はどうしてるの？』


「えっ……今？」


　急に話が怪しい方向に、舵を切られたと感じた。


『仕事のこと。勤め先は以前と同じなんでしょ。業績やその他諸々、順調なのかなって？』


「うっ……いや、それはだな」


『なに？　その感じだと、順調ではなさそうだけども』


　ああ……というか、無職ですが、何か？

　と、正直にそう言えば、先の『遺産話』に絡め、色々と下世話な想像をされてしまいかねない……。

　それを、ふと面倒に感じて――


「その辺りも含め――とにかく明日、親父と話してみるよ」


　俺は最後にそう伝えて、その通話を終わらせていた。