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淫徳のスゝメ
第3章 私が最も華やいだ頃のこと

* * * * * * *

 ゴールデンウィークの初日、私は朝からまづるさんと駅で待ち合わせをした。


 開放的な空気が舞う中、型で抜いたような通行人の波間に佇むまづるさんは、初夏の陽気にも優って明るい存在感を撒いていた。

 丸襟にさくらんぼの刺繍が施してある白いパフスリーブのブラウスに、カラミ素材のギンガムチェックのジャンパースカート、髪は珍しく編み込みにまとめてあって、玲瓏な顔をいくらか涼しく見せている。糸車や蝶がプリントしてあるパゴダのパラソルが、まづるさんの全体的に甘い雰囲気を引き締めていた。


 私は、迷わずまづるさんに駆け寄った。


「おはよ。姫猫さん目立つから、すぐ分かった」

「あら、悪目立ちかしら」

「可愛い顔して、そういうのは嫌味だよ」


 私は均等間隔に白いリボンがあしらってあるアイボリーのパラソルを閉じて、車道に向いた。



 今日から二泊三日の外泊だ。



 まづるさんには、唯子さんの他にもう一人、華城みゆき(はなしろみゆき)さんという従姉妹がいる。

 みゆきさんは私達の二歳上、同じ大学の上級生で、同世代の少女による少女らのための社交クラブの現会長だ。私はまづるさんを通して、その社交クラブに勧誘された。
 茶道部やらテニス部やらカラオケサークルやら、いかにも分かりやすい団体が数ある中で、みゆきさんのクラブのように活動内容を掴みかねる団体が存在するのは、この学校ならではの色か。
 みゆきさんの社交クラブには入会に至るまでの審査があって、歴史や規律、会員達の家系図(入会後、新規メンバーは会員達と疑似家族の契りを結ぶ。初代メンバー達の時代は気に入った会員同士が姉妹の契りを交わしていたくらいだったそうだが、歳月が重なるにつれて、中には籍を入れる約束を交わす者も出てくるようになったらしい)を覚え込まされ、それで初めて一人前のメンバーになる。

 こうした敷居の高さもあって、新入生歓迎会には彼女ら自らステージに上がることを辞退しており、私もその存在を知らなかったのだ。
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