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淫徳のスゝメ
第3章 私が最も華やいだ頃のこと




「興味もないし、みゆきちゃん達の活動内容には悪趣味な要素も入っているから、私は断っていたんだけれど。今回の合宿は、入会しなくてもメンバー同様の楽しみが体験出来るから参加だけでもしろだって。社交クラブは他校から来ている子もいるの。みゆきちゃん、姫猫さんの社交界での評判に惹かれて、私をダシにしたんだわ」



 まもなく、私とまづるさんの手前に大仰な艶をまとったベンツが停まった。

 細身のスーツに身を固めた運転手が席を降りた。彼女は、ともすればデパートの化粧品売り場の店員ほど厚塗りの顔に愛想をはりつけて、みゆきさんの使いであることを告げた。





 私達は車に乗り込み、およそ一時間半の旅をした。

 春夏の洋服や最新音楽の話に花を咲かせ、コラーゲン入りのフルーツのグミを食べ比べてはザクロが良いだの苺の方が形が可愛らしいだの議論して、車窓の雰囲気が変わったところで、景色を眺めて楽しんだ。


 至って健康的な旅だ。

 至って健康的な旅先は、避暑地の高原、木々が囲繞する別荘だった。



 私達は運転手に案内されて、みゆきさんの待つラウンジへ向かった。



 別荘は、実際のところホテルくらいの規模がある。

 近代的な西洋の町に見られるような建物は、一歩内部に踏み込めば、その外観とは一変して、時代錯誤な空間が広がる。金の手すりの螺旋階段にロカイユ模様の彫刻の扉、裸体の女達がモチーフとなったステンドグラスの天井は落碧の鮮やかな光を取り込んで、花やハーブのペイントがされた壺や額縁、白亜の像が至るところに置いてあり、足許は定番の赤絨毯、まさしく歴史資料集から抜け出てきたようである。
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