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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと

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 蓮美先生の私宅は、歓楽街の路地裏、いかがわしい廃屋が並んだ筋の一角に、一種異様な情緒を振り撒いていた。


 少し大きい一軒家くらいだ。

 曲線が大多数を占める様式に、くすんだ眺望に浮いた奇抜な配色、それは、庶民の住まいに相応しからぬ外観だ。





「いらっしゃい、よく来てくれたわ姫猫。まぁ、貴女が早良まづるさん。一度お会いしたことがあったわね、姫猫が世話になってるわ。貴女と是非話したかったの」

「改めて初めまして。姫猫にお話は聞いています、蓮美さん」



 かつては連れ込み宿として機能していたろうここの内部は、いっそう異界のようだった。

 社交界で名前を聞いたこともない。少なくとも私が知る以外の肩書きを持たないはずの蓮美先生は、現実味を遠ざかった城を縮小した具合の私宅を持ち、三十人近くの女達を従えていた。女達の年齢は、十代から五十代といったところか。全員、すこぶる透け感のあるネグリジェやインナーだけを身につけて、邸宅内を行き来している。



「私は貴女達のように七光で裕福な血筋ではないけれど、基督を研究するようになってから、それなりに羽振りは良かったのよ。いにしえのユダヤのペテン師だって、あれだけの欺瞞を後世に遺した。彼を学問にしている私がその不正を暴くのだから、勉強熱心な人達は、残念ながら、彼より遥かに嘘が下手な私の話に関心を持つ。ここにいる女達はね、私の独自の宗教学で、人生を見直した人達なの。進学や仕事、家族、恋愛、金銭……私が助言したら、嘘みたいに好転したんですって。恩返しに安月給で働いてくれているし、新たな事業も軌道に乗ったわ。この建物もある一人の私の信者が提供してくれたものよ」
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