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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと



 有本さんがどこからか入手した毒薬は、今こそ彼女の理想を叶える。


 滅びるために産まれ落ちた人間を、いち早く還るべきところへ還す秘薬。



 私は、断捨離的な快感に身が顫えていた。



 もっとも、これは空想にはとどまらないのだ。



「怖いのね」

「いい、え……」

「この錠剤を持って行きなさい。二十人分あるわ。これを飲んでおけば、感染は防げる。私も飲んでおくつもりよ」


「──……」



 私は、何故、笑って頷かなかったのか。



 生かしておいて私に利益をもたらす人間など、片手で数えるほどもいない。その内に含まれる有本さんは、自ら生命を保持しておくと言ったではないか。…………





 その夜、私が脱衣することはなかった。

 有本さんは運転手を呼びつけて、私を仏野の屋敷に送り返すよう指示をした。



 私は薬を持たされなかった。毒薬も、予防薬も。
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