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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと








 それから先は、あのいかがわしい、羽目の外れた占術の通りだ。


 お兄様は私に運転手を一人つけて、彼女に指示した。

 私は私の身分を証明するものも、携帯電話も取り上げられて、ポーチに詰まるだけの紙幣を持たされ、朝日も昇らない内に遠い田舎の村へ運ばれていった。





 そこは、昔ながらの集落だ。


 運転手の丸井の名義で借りたマンションが最近ようやく建ったらしいだけで、一面に広がる緑の中に点々と見られる家々は、歴史の教科書にまみえられる類の木造の平屋、庶民の世帯でも街のちょっとした富豪が持つほどの土地を所有している。奇妙なほど閉鎖的で、事実、ここの住民達は村意識がすこぶる強い。移住早々、彼らは私に無礼なよそ者扱いをした。



 お兄様が私に丸井を従わせたのは、屋敷いた運転手らの中で、私における信頼が最も彼女に強かった他に、彼女の口が固いからだ。

 私は命を狙われている。

 職業上、有本さんが警察の権限を駆使してまで私を捜索しようとはしまい。私の運転手には、逃亡後、私を隠し、且つ確実に世話出来る人格が必要だった。私は丸井姫猫として、彼女の妹を偽って暮らし始めた。

 配偶者にしておくか?別れ際、お兄様が持ち前の陽気を振る舞ったのが、まるで昨日のことのようだ。





 だが実際は、私がここに暮らしてから二週間が経っていた。
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