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果てのない海に呑まれて
第10章 兄と弟と母と。



「オレンジを食べるのは初めてか?」

「ええ……よく似たミカンって果物ならシエラでよく食べたけれど。ケチュア人が持ち込んだものよ」

「ミカン、か。昔シエラで食べた気がするな。まぁ取り敢えず一口かじってみろ」



言われて少し口に含む



「ん……なんか、少し酸っぱい…けど甘くて、美味しいわ」

「そうか」



ミゲルも自分の分を剥き、かじりついた

多少汁が飛ぶのは気にならないらしい

当然のように手の甲で拭って済ませる



「航海している間は食べられないからな。一年に一度の楽しみだ」



そう言ってふと思い出したように自分の手元を見た



「そういえばあいつの分がないな……まあ良いか」

「ミゲルってレオンの側付きというより、友人て感じよね。小さい頃から一緒なの?」

「友? 俺とあいつがか?

はっ、そんな温い関係じゃない。あいつも言っていただろう。俺はあいつの"もの"だ」



それでもその口調やレオンを語る時の様子はただの主従関係にはないものを感じる



「それに俺があいつの側付きになったのは三年前くらいからだぞ」

「えっ」

「会ったのは十年以上前だけどな。あいつが七つ、俺は八つの頃だった。

もともと俺は兄のフェリペ様の側付きとして連れてこられたんだ」


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