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セカンドバージン
第1章 ①ファーストキス
何も感じていなかった、本当に。アイツとワタシの間には男女の友情が成立すると思っていたから。きっかけはなんだったろう。思い出そうにも数分前のことすら思い出せない。

近づいてきたアイツの瞳の色にドキリとした。意識したことのない、アイツの雄の目。何故か、ヤバイ、と思った。

触れた唇の感触に身体がビクリと跳ねた。首筋から背中までゾワリとした感覚が走り、思わず身体が硬くなる。唇に触れた熱はすぐに離れていった。ほんの短い時間、触れただけのキスなのに、耳の奥に心臓があるようにドクドクと心臓の音が聞こえる。

すい、と指先で頬を撫でられて、目を閉じたままだったことに気がついて慌てて目を開ける。アイツはワタシにチラリと視線を投げて、マスターに「お会計を」と声をかけた。

そうだった、飲みに来てたんだった!と今更場所を思い出して顔が赤くなる。薄暗いカクテルバーとはいえ、公共の場所でキスするなんて恥ずかしい。しかもお互いが認める男友達と何をやっているんだろう。気恥ずかしさに飲み残していたカクテルグラスを煽っている私に「行くぞ」と声をかけて、アイツは席を立った。

「あ、あれ?お会計は?」
「終わった」
「いくら?割り勘!」
「後ででいい。ほら、階段だぞ。転ぶなよ」
「転ばないよ失礼な!」

B1にある店の扉をでて階段を登りながら、普段通りに交わす会話にホッとする。男友達は複数いても友達と思っている男とキスしたことはなかったから、どう対応したものかと思ったが、普段通りのやりとりに落ち着きを取り戻す。

地上に出ると通りはまだ多くの人が騒めいていた。半歩先を歩きだす男友達を追いかける。向かう先は駅の方角。

「そろそろ帰る?」

鞄から取り出したスマホの時計表示は22時を回ったところだ。明日は土曜日だし終電には時間がある。コイツと飲む時はいつも終電だが、たまにはこのくらいで帰れるとゆっくりできるかな、と思う。

それ以前に今日はコイツと居るのが気恥ずかしかった。元カレと別れて1年。いくら久しぶりとは言えキスにあんな感覚を覚えるなんてファーストキスでもあったかどうか。

意図せず俯いていた顔。だから、気づかなかった。

「っ、なっ?」

腕を掴まれたかと思ったらグイと強く引かれた。足がもつれ転びそうになる。文句を言おうと顔をあげて、視界に入ったアイツの顔に思わず目を閉じた。






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