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砂の人形
第8章 白昼夢

「動かないで。駱駝から落ちました。覚えていますか?」
「駱駝から? そんな、有り得ない」

 子供の頃から乗り慣れているし、今まで一度も落ちたことなんかない。それに、落ちた瞬間を覚えていない。思い出すのは、あの言葉。西のポリオー……聞いたことがない場所だわ。

「おとなしくしていてください」

 テルベーザは私を抱き上げると、駱駝に乗せてくれた。荷物はすでに別の駱駝にまとめられていて、テルベーザも同じ駱駝に乗った。

「突然でした。僕が振り向いたときには、砂の上に倒れていました」
「私、あなたを呼んだ気がする」
「僕は聞いてません。幻覚でしょう、砂漠病の初期症状です」
「病気なの?」
「……まだ深刻な状態じゃありません」

 確かに、具合が悪いような気はしない。駱駝から落ちた割には、どこかが痛むこともなく……それが返って不安に思えた。

「本当? 急に悪くなったりとかしないの? ひどくなるとどんな症状が出る?」
「悪くしない努力をしましょう。とにかく、昼と夜はしっかり眠ってください。砂浴びの後、どうせ眠らなかったんでしょう。だから今更、うたた寝なんかしてしまうんです」

 図星を突かれてばつが悪くなる。嫌みでも言われるのかと肩をすくめて、後ろのテルベーザを盗み見る。彼は唐突に羅針盤を取り出したりして、真面目な案内人の体になった。それに、表情。普段からあまり豊かな方じゃなかったけど、いつになく強張って見える。

「何か、話してください。少しは気が紛れます」
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