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砂の人形
第8章 白昼夢

「集落からさらに北へ二日進めば、ルニルカンの領土へ入ります。ここからは、深夜以外の時間は全て移動に使います。最寄りの村に一泊したら、馬を借りて第二離宮へ向かいます。馬なら一日かかりません。その日の夕方には、ペテ様にお会いできるでしょう」

 ルニルカン第二離宮。広大な北の大地を治めるルニルカンは、本宮の他五つの離宮を持っている。それぞれの離宮には国王に認められた王子が君臨し、一帯の政治を執っているらしい。ペテ様は、最南端の第二離宮を守っていらっしゃる。

 あと五日で。ペテ様にお会いして、お父様のことをお話ししなければならない。両国の平和のため、お父様と話し合いを……名ばかりの話し合いをしに行くんだわ。たくさんの兵士を連れて。国民はみんな怖がるでしょうね。私を裏切り者だと思うかしら。でも放っておけば、どの道お父様が戦争を始めてしまう。あの商人が言う自動人形がどんなものかはわからないけど、戦争で食料の供給が絶たれてしまえば、アルムカンは末端から崩れていく。

「大丈夫です。僕が必ず、送り届けます」

 少し固い口調で断言されると、涙がこぼれた。声も出ないし、テルベーザを振り返ることもできない。

 ルニルカン。水と緑に溢れ、飢えも渇きも知らない楽園。砂漠の彼方に思い描いた理想郷は、思ったよりも全然近くで。もっとずっと遠ければいいのに。ずっとたどり着かなければいいのに。テルベーザと私以外は全部、砂漠の幻であってくれればいいのに。
 そんな思いも乗せながら、駱駝はゆっくりと北へ進んでいく。
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