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潮騒
第3章 婚家の実情 ー磯波ー
祝言の翌日、改めて正一郎の家族全員と顔を合わせ、挨拶をする。
昨夜の祝言でも一通りの紹介はされるものの、親戚から近所の者まで寄り集まっていては実際何処までが一緒に住んでいる家族なのかわからぬものだ。

正一郎の家は姓を高野といい、集落の中でも少なくない名だから、誰も高野とは呼ばない。
家の者は、姓とは別に屋号と呼ばれる稼業だの先代の名などで呼ばれるのが常だった。

正一郎の家は『げんじろう』と呼ばれ、それは正一郎の祖父にあたる人の名なのだ、ということだった。
嫁した男の名は正一郎だが、これから菊乃は『げんじろうの嫁』で集落内では通るのだ。

まぁこれは周りが皆そうだし、菊乃はそういう中で育ったので、特に違和感は感じなかった。
例えその家がもう酒屋を営んでいなくても、昔酒屋を営んでいれば『酒屋のおばちゃん』、親の名は違ってもその家が皆からサキチと呼ばれていれば『サキチの息子』と言った具合で、愛称のようなものだった。
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