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潮騒
第9章 正一郎 不在の夏 ー大時化ー
「おい、産婆なんぞ山向こうにしか居らんぞ…俺、酒屋の婆さん呼んで来たるわ! 何回も娘のお産見とるけ、ちっとくらいは知っとるやろ! タツノ! 代われ! ここはお前らで大丈夫やな?」

気を利かせた勝二が、タツノを呼び戻し、菊乃を支える役目をタツノに代わった。勝二は途中で進路を変え、菊乃は二人に支えられながら自宅へと歩いた。

腹を抑えて立ち止まり、痛みをやりすごしてはまた歩く。
しゃきしゃき歩けぬ分、時間がかかる。
間隔が狭まり、痛みも徐々に強くなる。
一度経験した事だから、微かには判る。
猶予はない。

腹をさすりながら、何とか家まで保ってくれと願った。

あと、少し…


もう、少し…


頑張れ、赤ちゃん…

助けて、正一郎さん…

弟か妹か、護って、剛志…
私はあんたを護られへんかったけど…
頼む、赤ちゃんを護って….お願い….

…お願い…


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