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茜色の空に
第10章 失われた時を求めて
「海渡……海渡なんですよね?」

涙声で、彼女が俺の名前を呼ぶ。

俺は一歩また一歩、ゆっくり彼女に近づいていき、そして彼女の濡れた頬に触れる。

メガネははずしてコンタクトになり、倫子は俺の想像以上に綺麗になっていた。

俺は笑いながら言う。

「花嫁見る前にこんなに泣いてどうすんだよ?
せっかくの美人が台無しだし。」

俺の言葉で、更に倫子を泣かせてしまう。

我慢できずに、俺は倫子を強く抱き締めた。

ずっと夢にまで見た、倫子の香りと倫子の細い身体。

抱き締めながら、ずっと言えなかった言葉を紡ぐ。

「お前を置いて消えてしまって、本当にごめんな……ずっと会いたかった……ずっと忘れようと思ったけど忘れられなかった……倫子、本当にごめん……」

その言葉を聞いた倫子は、俺を抱き締める腕に力を混めて言った。

「私もです……忘れられなかった……ずっと会いたかった……」

失われた時が、やっと10年ぶりに動き出した瞬間。

もう二度と離さない。

そう心に誓った。
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