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茜色の空に
第10章 失われた時を求めて
なんだかんだ、コーヒーを飲んでるうちに一時間が過ぎて、約束の時間の少し前になる。

俺はクロークに適当な荷物を預け、会場に向かった。

式の前に受付を済ますということで、早い時間に集合だから、美容院でセットしてから来る女共は大変だとは思う。

俺より早く、受付で待ってる百合の友人だろうか……ピンク色のふわっとした素材のワンピースにシルバーのミュールを履き、長い綺麗な黒髪をアップにしている。

後ろ姿だけど、動揺した。

あんなに追い求めた、彼女に見えたから。

「すいません、俺受付頼まれたんですがここでいいんですかね?」

俺が話しかけると、彼女が驚いたように振り返った。

人生で奇跡とか偶然って、ドラマや小説のなかの出来事にしか思っていないし、信じてもいなかった。

人間、予想してもない出来事が起きると固まるのな。

心臓の鼓動はやたら煩くて耳障りだし、何よりも立ってるのもやっと、口のなかもカラカラ。

俺の前に、10年の間会いたくて夢にまで見て、抱き締めたくて仕方なかった彼女がいる。

その彼女が、ただ静かに瞳から涙を流しながら俺を静かに見つめていた。

俺は、やっとの想いで彼女の名前を呼ぶ。

「倫子……?」
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