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令嬢は元暗殺者に恋をする
第10章 新たな出会い
「助けてくれたことにはお礼を言うわ。でも、いきなり抱きしめるなんて……」

 言葉の途中で、少年は驚いた表情で目を見開いた。
 暁天色の瞳がことさら明るさを増す。

「あんた!」

「え? 何?」

「あの診療所の! どっかで見たことあると思ったんだよ」

 サラは眉根を寄せ、怪訝な顔をする。

 何やらこの少年は自分のことを知っている口振りだ。だが、少年の次の言葉がサラに大きな衝撃を与えた。

「ほら、あんた何とかっていう医者の家でハルの名前を何度も呼んでただろう? それも泣きながら」

 今度はサラが大きく目を見開いた。
 よもや、目の前の少年からハルの名を聞くことになろうとは思いもしなかったから。

 嘘でしょう? とサラは少年の両腕をつかむ。

「あなた、ハルのこと知っているの! もしかして、あなた……」

 サラはテオから聞かされた、ハルの友達という人物の人相と名前を思い出す。確かに、顔立ちも姿も一致するではないか。

「シン……」

「ええ! どうして俺の名前を」

「テオから聞いたのよ」

「テオ?」

 ああ、とシンは納得した顔をする。

「そういえばあの時、ハルと一緒にもうひとり、いかにも真面目そうというか、堅物そうな青年が側にいたな」

「テオの言ったとおりだわ。ほんと、あなた軽薄そう……」

「おい……」

 シンはサラの遠慮のない言葉をたしなめた。そんなシンにはかまわず、サラは相手の腕を強く揺さぶった。

「私って本当に運がいいわ! ねえ、あなたハルのお友達なのよね?」

「いや、お友達って言うか、何て言うか……」

「私、彼を探しているの。あなたならハルの居場所を知ってるでしょう? ハルに会わせて、どうしても会いたいの!」

「会いたいって、言われても」

 まいったなあ……とシンは頭をかき、明るい空を見上げ途方に暮れた表情をするのであった。
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