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令嬢は元暗殺者に恋をする
第2章 出会い
「どうされたのです? サラ様!」

「お待ち下さい!」

 引き止める声を無視し、サラは振り返ることなく走った。

 まとわりつく衣装の裾をうっとうしいとばかりに両手でたくしあげる。

 靴を履くのを忘れたのか、あるいは履く時間さえ惜しいと思ったのか、足元は裸足であった。

 やがて、サラは目的の場所に近づいた。

 あの時、一瞬だけ瞳に映ったもの。
 それは人の姿であった。

 大木の根本に背中を預け立てた片膝を一本の剣とともに片手で抱え、そこにひたいを乗せてうなだれているひとりの少年の姿。しかし、どうも様子がおかしい。

 サラの足が少年の数歩手前で止まった。
 口許に両手をあて小さな悲鳴を上げ、信じられないとばかりに首を横に振る。

 ひどい……。

 それはあまりにも無惨な姿であった。

 少年の右肩を貫く一本の矢。
 その肩が真っ赤な血で染まっている。
 時折、少年の細い肩がぴくりと震えているのはまだ息がある証拠。

 賊に襲われたのであろうか。
 もしもそうであるなら、命があることじたい奇跡に近い。

 早くこの人を助けてあげなければ。
 なのに足が動かない。

 怖い……何だか怖い……。

 この少年とかかわってしまうことに、サラは何故かためらいを覚えた。
そのためらいの正体が何であるかはわからない。

 心にかかる不安を振りきり、サラは首を振る。
 相手は怪我人なのだ。

「あなた……」

 サラは声を震わせ、傷ついた少年に近づこうと再び歩を進めた。

 華奢な身体つきの少年であった。
 肩も腕も男の子にしては頼りないといっていいくらい細く、見るからに弱々しい印象である。

 遠慮がちに近寄ってくるサラの足音に気づいたのか、少年はゆっくりと顔を上げた。

 思わずサラは息を飲む。
 閉ざしていた少年のまぶたが震えながら緩やかに開かれる。




 それが、二人の出会いであった。
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