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令嬢は元暗殺者に恋をする
第13章 心を動かされたのは……
「待ってハル!」

 なおも追いかけようとするサラの腕を、シンは咄嗟につかんで引き止める。

「もう、よせ」

「離して! ずっとハルのこと探したの。やっと会えたのに、このまま別れるなんていやよ!」

 つかまれた腕を振り解こうと、激しく暴れるサラの身体をシンは背後から抱きしめた。
 身動きができないほどに、強くきつく。

「何するの! 離して。離さないと、あなたのこと一生許さない!」

「それでもかまわない」

「あなたなんか嫌いよ……」

「どうしてわからない。あんたの純粋な気持ちはあいつには伝わらない。むしろ、遠ざけてしまうだけだ」

「お願い。離して……ハルが行ってしまう。ハル!」

 振り返ることもなく遠ざかっていくその背に向かって、何度も名を叫ぶ。
 サラの悲痛な叫びが胸に突き刺さる。
 どんなに思いを伝えようとしたところで、相手に届かないことだってある。

 恨み言を言われてもいい。
 嫌われてもいい。

 これ以上、泣き叫ぶ少女の声を聞くのが辛かった。

 だから──。

「ごめん……」

 シンは悲痛な表情できつく奥歯を噛み、サラの口を背後から手を回してふさいでしまった。

「……っ!」

 腕の中で身を震わせるサラの肩に、身をかがめシンはひたいを添えた。

 もはや、愛する人の名を叫ぶことも、追いかけることもかなわず、サラはただ去って行くハルの背中を必死で目で追いかける。

 やがてその姿も、薄暗い裏街に落ちる影の向こうへと消えていってしまった。

 きつくつむったサラの目から、涙がこぼれシンの手にぱたぱたと落ちる。

 腕の中で小刻みに震える少女の華奢な身体を、シンはさらにきつく抱きしめた。
 やがて、裏街特有のどろりとした、よどんだ静寂が戻り、傾きかけた陽の光が足下に陰影を落とす。
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