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令嬢は元暗殺者に恋をする
第13章 心を動かされたのは……
 いつまでも泣きやまないサラの手を引き、シンは町の大広場へと続く並木道を歩いた。
 すれ違っていく人々が、何やら不審な目をこちらに投げかけすれ違っていく。

 まいったな……。

 やがてあきらめたように立ち止まり、シンは心底困ったと頭をかきながら、サラを木陰の下に並ぶベンチへ導き座らせた。

「なあ、もう泣くな」

 腰を屈め、サラの涙に濡れた顔をのぞき込む。
 首の後ろで無造作に束ねられたシンの長い髪が、はらりと肩から胸の前へと落ちた。

「これじゃ、まるで俺が女の子を泣かせた悪い男に見られるだろ。俺、女の子泣かせるのはベッドの上だけって……いてっ!」

 振り上げられたサラの右手が、シンの頬をぺちりと打ったのだ。

「こうなったのも全部あなたのせいじゃない! あなたのせいでハルを追いかけることができなかった。せっかく会えたのに……やっと、会えたのに……ひどいわ」

「そうは言っても、ただ追いかけるばかりじゃ、あいつの気持ちはつかめないよ」

 そろりと顔を上げ、涙に濡れた目でサラはシンを見上げる。

「それって、押してもだめなら引いてみるってこと? そうしたら、ハルは少しでも私のこと気にかけてくれる?」

「いや、引いたらあいつの場合、間違いなくそれで終わりだな。追いかけてくるような奴じゃない」

「だったら、なおさら引くわけにはいかないじゃない!」

 シンはうーんと唸り、またしても泣き出してしまったサラの顔をもう一度のぞき込む。

「あのさ、あんな奴なんかやめて俺にしてみるってのはどう? 俺、優しいよ。あいつみたいに女の子を悲しませて泣かせるようなことはしないし、大切にするし、守ってあげるし、会いたいって言ったら、いつでも会ってあげる」

 しかし、サラは頬を膨らませふいっと、顔をそむけてしまった。

「あなたなんか嫌いって言ったでしょう。口もききたくないわ。どこかに行ってちょうだい!」

「なあ……」

 シンの指先が目の縁にたまったサラの涙をすくう。
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